後書き
5万プラチナポイントに達し、手に入れたプラチナカード。そして、その上で目標だったスーパーフライヤーズカード。こちらは妻の分と含めて2枚。全て手元にそろって、しみじみと感慨に浸るある夜。
確かにこれが、この「修行」で「解脱」した先に待っている目標だった。見事、目標達成。
今さら言うまでもないが、酔狂である。妻にも毎回「何やってんだか」と笑われたものだ。
だが、スーパーフライヤーズカードに印刷されたスターアライアンス・ゴールドのマークを見て、僕よりにんまりしているのは何より妻の方であった。
「くくくー。これでいつもラウンジ使えるねんな。それに、あたしのクレジット、あなたの家族会員扱いやろ。使った代金は、あなたの円口座からの引き落としやな。これから日本行くたび、買い物には困らへんで。おほほほほー」
ちょっと待ってくれ。あくまで君のカードはスターアライアンス・ゴールドのためであって、クレジット機能が使用されるとは思ってへんねん。使うなら必ず事前に言うてくれや。でないと、知らん間に日本円の口座ショートする。
そんな夫婦の会話がありつつも、妻が眠ったあとに、改めてカードを手にとってじっくりと目の前で眺める。そしてここまでの道のりを思い出す。
修行と言いつつ、それは決して苦行ではなかった。特につらいとか、飽きたなどと思う間もなかった気がする。
いやむしろ、飛行機にたくさん乗れるということそのものを、無邪気に楽しんでいたのだと、今さらながらに思い出してにんまりする。
→修行記録
その要因の一つに、楽だったということもある。全36フライトの内、その半分の18回がビジネスクラスもしくはスーパーシートプレミアムの利用に当たる。中にはマイルでのアップグレードもあるので、ビジネスクラスの利用が即プラチナポイントの増量に反映されているわけではないのだが。
修行のための上位クラスの利用の意義は「PP単価が安い」こと。移動が何よりの主眼であれば安価なクラスを利用するだろう。余分に払ったからと言って、飛行機は目的地に早く着くわけでもない。では、お金があるから、あるいは楽を求めるから、だから上位クラスを利用したのか。いや、これもまた違う。効率的なPP確保の観点から、PP単価を基準に検討するならば、CやFのクラスを利用する方が「経済的」なのである。気分のいいフライトを享受したことは確かだが、あくまでそれは効率的なPPの確保を求めた結果である。
では、いったいどれほどのコストを費やしたのか。
通常の飛行機の利用(旅行や出張や)で足りない分のプラチナポイントを稼ぐために、「無駄に」飛行機に搭乗することを修行と呼ぶのだから、そこにかかる費用は、それぞれの前提によりまったく人それぞれだろう。同好の志の記録をウェブで見ていると、4、50万円という金額をよく見かける。
僕の場合は、換算レートにもよるが、純粋に修行にかかったのはおよそ25万円。ちょっとしたパソコンを1台購入する程度で済んだ。修行で獲得したPPの単価は8円少々だが、日本ベースでは10円ほどかかるようだ。
旅行で約15,437ポイント。これはバンコクから成田経由で沖縄行きが2回あったことが効いている。出張はさほど多くなくて、5,825ポイント。日本出張のタイ航空便を自腹でビジネスにアップグレードした他は、タイ国内線やクアラルンプール往復などの比較的短距離路線ばかりだった。
残りの29,925ポイントが修行による加算分だが、比較的安価に済んだ何よりの要因は、細かい分析に入り込むまでもなく、「スターアライアンス・ビジット・ジャパン・エアパス」が使えたこと。
スターアライアンス便で日本に入ると、ANAの国内線が一律1.1万円で利用可能。さらに、当日空港で空きがあれば7,000円の追加でプレミアムクラスが利用できる。そうなるとプレミアムポイントは、基本路線マイルの1.5倍+400ポイント加算。これで国内長距離の沖縄線を利用したことが効いている。
… … … … … … …
だがしかし、8月の終わりに解脱し、その後すぐに各種カードも手元に届いたけれど、実際に各種メリットが享受できるまでには3ヶ月以上先のANA便の利用まで待たなければなかった。(獲得してしまった以上、用もないに飛行機に乗ることはしない)
2009年という年もそろそろ幕引きが近づいた頃。親戚と、大学時代の友人の結婚式とで、2週連続で日本へ行く機会があった。これが、初めての「プラチナ会員」の特典の実際的な利用だった。
バンコク→成田//羽田→岡山//伊丹→成田→バンコク。そして、バンコク→成田→バンコクという行程。いずれも妻と二人でのフライト。
マイルでアップグレードが叶ったバンコク→成田以外は、密やかに期待はしていたものの、いわゆるインボラアップグレードはかなわず(インボランタリー・アップグレード=エコノミーのオーバーブッキング等により、意図せずして上位クラスに変えてもらえる)。
ただし、「今後は別にビジネス席やなくてええなぁ、これだけ色々楽できると、それだけで満足やでー」という妻の一言が全てを表している。
今らながら、今回の2回の旅で何がよかったのか。
その1。国内線前方座席事前指定サービス。乗り降りのためには、機体前方の乗降口に近い方が便利である。そういった席を優先的に予約できる。
その2。専用チェックインカウンター利用。ファーストやビジネスクラス用カウンターの利用、あるいは成田などではゴールド会員専用のカウンターが用意されている。人も少ないので、並んで待つ時間が短くて済む。
その3。預け荷物許容量アップ。バンコクからの出発便は日本で会う人たちへのおみやげで、帰りは自分たちのと友達に頼まれた買い物の収穫物とで、とかくスーツケースはかなりな重さになる。もちろん、超過分は料金を払えば済むと言えば済むのだけれど、そこに至るまでの許容量が20kg緩和される。日本国内線普通席だと通常が20kgだから、40kgまではだいじょうぶ。だいたい、スーツケースにあれこれ詰めるから「Heavy」とのタグを貼られることが多いのだが、さすがにここまで枠があると超過料金が課せられるかもしれないという不安は払拭される。
その4。荷物受け取り優先タグ。大型機だった場合、次々と流れてくる荷物の中から自分の物に出会うまでまだかまだかとじりじりすることもある。しかし「プライオリティー」「ファーストクラス」というタグのおかげで、ときには、自身がターンテーブルに着いたときには既に見覚えのあるスーツケースがるくる回っていることさえもある。
その5。手荷物検査の優先レーン。これは日本国内の主要空港に限るが、一般とは別に用意されているので(だいたい目立たないところにひっそりとある)、ここでも時間が短縮できる。搭乗時刻が迫るのに列が長かったり、前の人がパソコンをあらかじめ取り出していなくて、促されて慌てているのを後ろに立ってじりじり眺めているストレスから解放される。
その6。ラウンジ利用。一番意味合いが大きいのはこれかもしない。搭乗が始まるまでの時間を専用ラウンジで過ごせる。だいたいにおいて静かだし(関係ない航空会社のアナウンスが流れない)、お酒や軽食が用意されているし、無線LANにもつなげるし、電源は取れるし、シャワーやマッサージも利用できる。
妻は成田のラウンジで供されるフォションのアイスクリームと、うどん・そばを気に入っていた。ちなみにうどん・そばの上には青字で「ANA」と書かれたかまぼこが乗っかるのだが、コーポーレートカラーを使う気持ちは分かるが、あまり食欲が刺激されるものではない。
その7。優先搭乗。エコノミーであったとしても、メンバーは先に飛行機に乗せてもらえる。ラウンジで過ごしていて「○○便は搭乗を開始いたしました」と聞いて歩いていくと、ずらりと並んで待つ人を横目に、優先の入り口からすっと機内に入れる。長蛇の列に並ばなくて済むし、中に入ってから、頭上の棚に荷物を入れるにも、空いている場所を探さなくてよい。
10年以上前、バックパッカーだったころ、「果たして機内へは素早く乗り込んだ方が良いのか、むしろ列が消えるのを待ってゆうゆうと入る方が良いのだろうか」という命題に楽しく頭を悩ませていたことが懐かしく思い出される。
その8。乗務員挨拶。「○○様、いつもご利用いただきありがとうございます」と席まで来て言ってもらえる。ただしこれはは、あまりメリットを感じる話ではない。具体的に何か、例えばシャンパンを配ってもらえるとか、機内食に一品おまけしてくれるとか、あるいは手を握ってもらえるようなわけではない。
「何かありましたらいつでもお申し付けください」と言われても、「はあ、どうぞよろしくお願いします」と儀礼的に返すしかやることがない。むしろエコノミーに乗っていてこれをやられると、かえって気恥ずかしい。
その9。ANA便利用で成田に着くと、到着時に国内専用のラウンジが利用できる。乗り継ぎまでの時間つぶしには便利である。コーヒーを飲んだり、部屋数が少ないから待ち時間が長いことが多いが、夜行便で来てシャワーを浴びてさっぱりできるし、マッサージチェアーが用意された休憩室もある。
その10。マイル加算割合が高い。同じ予約クラスで同じ路線に乗っても、ボーナス分がつく。村上春樹のデビュー作「風の歌を聴け」にあるセリフを応用するならば、「マイル持ちであり続けるためには何も要らない。人工衛星にガソリンが要らないのと同じさ。」
しかしもちろん「マイル持ちになるには少しばかり金と手間が要るけれどね」ではあるのだが。
だがしかし、これだけ並べてみたものの、人によっては「だからなんやねん」であろう。例えば年に1回とか2回だけ飛行機に乗るという生活パターンであれば、空港で過ごす時間も、特にどうということもないかもしれない。むしろそういうところに旅情を感じることもあるだろう。僕もかつてはそうだったし、今でもかなりの部分そういうところはある。
ただ、ある程度の頻度で飛行機を利用する人にとっては(そのある程度は人に依るだろう)、これら各種特典は、なかなかにありがたく、それは「飛行機の旅で不可避な各所での待ち時間ができる限り短縮され、かつできる限り楽になる」という点に突き詰められる。
あるいはしかし、「普段からビジネスとかファーストを利用しているから、これらが特別な利点だとは思わない」という人も、世の中には数は少ないけれど、確実に存在していることだろう。
ただ僕は残念なことに、そういう意味で恵まれた階層には所属していないので、家の近所の商店街のニコニコスタンプを集めて500円の金券と換えることや、よく行く居酒屋で一皿サービスしてもらうことに喜びを見出すのと同じく、ANAあるいはスターアライアンスの各種特典をありがたく享受する。
そして、これは最初の意図にぐるっと戻るのだけど、プラチナ(以上)のステータスを獲得することにより、スーパーフライヤーズカードを申し込む権利が発生し、そしてこのスーパーフライヤーズカードは、年会費を払い続けている限り「例え飛行機に乗らなくても、各種特典が利用できる権利」がこれからずっとついて回るのだ。
やっほう。
… … … … … … …
「ビジネスクラスご利用のお客様、ANAダイヤモンド会員、プラチナ会員、スーパーフライヤーズ会員のお客様、ならびにスターアライアンス・ゴールドメンバーのお客様、お待たせいたしました、優先搭乗を開始いたします」
おっと、お先に失礼。
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