関空、バンコク往復の格安航空券の相場は時期にもよるのだが、航空会社を問わなければおよそ4万〜6万というところ。各社の正規割引運賃(タイ航空のTG前売り、全日空のGETなど)では6〜10数万というところ。エコノミークラス正規運賃では、25万とちょっと。
それでは逆に3万を切って往復できる国際線を考えてみる。ソウルくらいしか思いつかない。
ところが、である。今回とった、関空バンコクの往復便は2.8万円。格安チケットのメールマガジンを購読しているのだが、そこで得た情報をもとにして買った。これだと、東京往復とさほど変わらない値段で、南国へ行って帰ることができる。
エンジェル航空というのが昨年タイで二番目の航空会社として就航し、その大阪路線が6月の終わりから飛び始めたので、それの記念価格というような意味合いらしい。実際キャンペーン期間以降は6万円ほどの設定になっていた。
これは、行かねばならぬだろう。これが今回の旅行の動機のほぼ全てだ。
全日空のマイレージクラブ会員だから、スターアライアンス系ではないエンジェル航空ではフライトによって加算されるマイルはない。貯まるのはクレジットで購入したチケットの代金分280マイルだけ。しかし、そんなことは関係ない。タイに3万を切って往復できる、ただそれだけでうれしい。
出発が深夜なので、会社勤めにはありがたい。もしも休みがとれなければ、金曜の深夜(土曜になったばかり)に飛んで、土曜丸一日をバンコクでぶらぶらし、日曜の午前発でもどってくるのも悪くないと思った。
うまい具合に金曜と月曜に休暇を入れることができたので、4日間のタイ旅行ができる。さて、どこへ行こうか、である。
行ったことのないところで、海を見てのんびりしようという希望のもと、サメット島が候補にあがり、即決。エカマイ(東バスターミナル)から港のあるバーンペーまでバスで出て、そこからは船で渡れるらしい。空港からエカマイまではシャトルバスが直行している。
そんなわけで、7月最初の木曜日。7時前に会社を辞して、一度家に帰って荷物を詰めて関空へ出かけることにする。
僕が暮らす西宮北口駅前から関空へ出るバスは終発が9時なので、あまりにも早すぎる。家に帰る前に緊急にコンタクト屋へ寄ってきたので、すでに8時をまわったくらいに帰宅。冷蔵庫の残り物を片づける(砂ずりとニガウリの炒め物を温め、モロヘイヤを刻んでスープにし、少し残った日本酒をラッパ飲みし)。
梅田発のバスでさえ9時55分が最終だから、これでも少し早いし、何よりこちらの荷造りが追いつかない。ネットでJRの時刻表を検索し、10時半すぎに大阪から関空へ出る最終の「関空快速」があることを知り、それに決めた。
食事の後かたづけをして、シャワーを浴びて、生ゴミをきっちりしばってベランダに出し、なんてことをしていたらそのJRすらおぼつかなくなってきた。やむなくタクシーを呼び、西宮北口の駅まで乗る。この時すでに午後10時過ぎ。
JR環状線のホームへ急ぐ。ひさしぶりに大阪駅へやってきた。高校時代は毎日こういうルートで通っていたから、少し懐かしさもある。環状線を一本やり過ごしたら関空快速である。
ここ数日、かなり寝不足の日々でずっとこめかみが心臓の鼓動に合わせてずきずきと痛んでいたので、とりあえず目をつむる。
何度か薄い眠りから覚めそうになるが、敢えて眠り続ける。うまい具合に一つ手前の「りんくうタウン」のさらに少し前で目が覚める。乗客の姿はほとんど見えない。
人気のない出発ロビーで、エンジェル航空のチェックインカウンターを探す。それはキャセイパシフィックに間借りしていた。係員もまだ不慣れな様子で、僕が「非常口の通路側ってありますか?」と訪ねると、別の係員に何やら耳打ちしてそこで返ってきたことばが「大変失礼ですが、お客様は英語はお話しになられますか」というものだった。「問題ないですよ(万一の際は非常口に隣接する席の人間は手助けをすることになっており、その際のやりとりが英語になるのであろう)」ということで出発1時間半前なのに意外にもいい席がとれた。非常口の席は足が伸ばせるし、通路側だとアルコールを大量に摂取しても人に迷惑をかけることなくトイレに立てる。
カウンターに「外国人用」と書いたものしかなかったから「出入国カードもらえますか」と聞いたら、「なくなりました」。そうそう、確か7月から出入国カードの制度が日本人に対しては廃止されたのだった。
バックパックを預けて立ち去ろうとしたら「お客様」と後ろから呼ぶ声。バックパックの預かり証である、バゲッジクレイムタグを係員が渡し忘れていた。気付かなかったこちらもこちらである。
「高すぎる」という気持ちをいつも抱いてしまう、空港施設利用料の支払いは、ビザカードのカウンターでカードで支払いたいところだが、とっくに営業を終了している。その他の売店や銀行なども閉店。いつもはずらりと人が列をなしている出国のカウンターも、電気が消えている。横の方から職員に呼ばれ、カウンターではなく彼らの事務所の窓口で手続きする。
出発案内の掲示板には、これから乗り込むべきエンジェル航空の案内だけがぽつんと光っている。ちょっとめずらしい光景だから写真に納めようと思ったが、ここで重大な忘れ物に気付いた。取り出したデジタルカメラにはスマートメディアが装着されていなかった。普通のカメラで言えば、本体はあるけどフィルムを入れ忘れたようなものである。慌ただしく準備をしたから、何か忘れ物はあるかもしれないという不安はあったのだが、まさかこれだったとは。地下のローソンで買った飲みかけの缶ビールを片手にショックを受ける。