全てはマイルのために

 署名、というのがとても苦手だ。大学入学以来ずっと、文章を書く手段はキーボードになっているし、そもそも通信簿には「字をていねいに書きましょう」と毎学期のように記されていたくらいだから、上手く丁寧に書こうとすればするほどどこかで失敗をしてバランスの崩れた字になってしまう。いつも思うのだが、僕の署名に共通しているのは字体ではなく、いびつさにあるような気がする。果たして意味を持つのだろうかと自分でも訝しく思うほどである。
 特にカードの裏の細長い隙間に将来にわたって人目にさらされる署名というのは上手くいった試しがない。電気店の会員証や、サティのポイントカードなどは惨憺たる文字が僕の名前を主張している。それだったらカードをもう増やさなければよいじゃないかと言われるかもしれないけれど、最近新たに全日空のマイレージクラブがビザカードと一緒になっているものを持ち始めた。
 ご存知のようにマイレージクラブというのは、飛んだ距離に応じてマイルが加算され、ある程度貯まると無料航空券やらアップグレードの権利などがもらえるというサービスである。薬局やクリーニング屋なんかで300円ごとにスタンプを押してもらい、いっぱいになったら500円の金券がもらえる仕組みと同じようなものだ。
 全日空は、世界的な航空連合スターアライアンスに加盟しているから、この夏の終わりに友達と計画しているルフトハンザでのドイツ行きや、これからも飛ぶであろうタイ航空でのバンコクなどでもマイルを貯めることができる。
 これまで使っていたセゾンカードと違って会費はかかるけれど、海外旅行保険が付属しているので毎回かけていた保険料と比べてもまあ悪くない。
 何よりこのカードの第一の利点というのは、ポイントをマイルに換算できるという点にある。飛行機を利用しなくても、買い物をすることで特典に近づくのである。どうせ払うお金であるのなら、できるだけこのカードを使って航空券に近づきたい。だから、携帯電話やKDDあるいはプロバイダなどの利用料金は言うに及ばず、少額の商品であってももっぱらクレジットカードで決済をしている。飲み代などはもちろん、CD1枚であっても靴下のまとめ買いでも、あるいは本代なども。
 その度に署名をしなくてはならないが、マイルを手に入れるためだと思うと苦になるわけがない。全てはマイルのために、である。心に思い浮かべる世界地図で、関空を起点にした矢印は少しずつだけど確実に伸びてゆく。さて、どこまで伸びるか。


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