声もメールも電波に乗って

 携帯電話の機種を変えた。
 そもそも必要になったのは、大学最後の年の夏前、下宿を引き払って一時的に実家に戻る時だったから、2年弱ずっと同じ物を使用していたことになる。どれくらい古い物かと言うと、購入した当時「漢字表示ができる方がいいなあ」というのが一つの選択基準だったくらいだ。セルラーにした理由は、鶴田真由がCMに出ていたからだ。
 別段不便というほどではないけれど、途切れやすいという傾向はあったし、音もさほどよいわけではなかった。ある日、三条通を鴨川から西に向かっていて、ふいに河原町三条のヒットショップに出向いた。衝動買いならぬ、衝動「機種変」である。
 新しく手に入れたのはcdmaOne。それほど必要としているというわけでもなかったけれど、メールのやりとりもできたらおもしろそうだと思ってこれにしてみた。
 先進技術の固まりとも言えるこんな製品が無料で手に入るというのは、どう考えてもゆがんだ仕組みだとは思う。まあ、代わりにミリオンカードを作らされたけれど(店員曰く「すぐに解約してもらっていいです」)。
 確かに、音はよい。固定電話には及ばないけれど、これまでの物に比べると格段に進歩している。多少ざらついた感じが強調されるものの、人の声はくっきりと立っている。もちろん本体は軽いし薄いし、電源のジャックも半分くらいの大きさになっている。液晶部分は広く見やすい。ここ数年での技術革新を目の当たりにしているようだ。その代わり、説明書も3倍の分厚さ。
 さっそく、かちかちとキーを押して文章を作ってみるが、これがなかなかにいらいらする作業。「僕は」という文字を表示させようとすると「は」を5回、「記号」を1回、「か」を3回、「は」を1回、変換のボタンを1回、合計で10回のキー操作が必要となる。パソコンのキーボードであれば、7回のキータッチですむし、左右両手が使えるから頭に浮かんだ言葉はほとんど時間差を意識するまでもなく画面に表れる。ああ、面倒この上ない。それに携帯だと通信速度だって遅いし、料金だって安くはないよな。結論、なんだ、パソコンが使えるんだから携帯のメールなんて必要ないじゃないか。
 なんて文句をつけてそしてそれに納得しいて、はたと恐ろしいことに気がついた。こういう論調は新しい技術についていけない人間に典型的な「酸っぱいぶどう」であろう、と。「紙とペンがあればワープロなんて不要だ」とか「インターネットなんて所詮しょうもない情報を流し読みするだけじゃないか」なんていうのと性格は同じ。
 虚心坦懐、早撃ち女子高生に負けぬように研鑽しよう。


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