旅行準備のトマトソース
久々の旅行の出発まで一週間を切った日曜日の夜。そろそろ準備を始めなくてはならない。生鮮食品の整理である。
一週間に一度という買い物ペースだから、冷蔵庫も冷凍庫も普通にいけばほとんど空にすることはできる。課題はタマネギ。「袋いっぱいでいくら」という売られ方をしていたので、ついついたっぷりと詰め込んでしまったのだ。残りは5個。その中の大きそうな三つを選んでみじん切り。
北京鍋(何でもかんでもこの鍋は便利である)にオリーブオイルを注ぎ、ざばっとタマネギを投入。それなりの大きさがあるこの鍋の八割方が埋まってしまう。本当にだいじょうぶかなあと思いながらも、始めは強めの中火くらいで炒めていく。ずっとタマネギに向かい合っていても面白みに欠けるから、傍らにウィスキー、そして「ダンス・ダンス・ダンス」。
ジャージャーと炒めていると途切れることなくツンと刺激臭のある湯気が立ち上る。ウィスキーをくいっと身体に流し込みながら、気に入っているシーンだけ適当に小説を拾い読む。
時間は流れ、アルコールは身体に染み込み、「僕」はステップを踏み続ける。そしてあれほど圧倒的な容量があったタマネギも三分の一ほどのかさに減っている。色は次第に透明感のある飴色に変わる。火を細めて調節しながら甘い匂いが立ち上るまで気長にかき回し続ける。
できあがった内の三分の二は荒熱をとってから、いくつかに小分けして平べったくラップしてジップロックで包んで冷凍庫へ。
あとの三分の一を使ってトマトソースを作ることにした。炒めている途中のふとした思いつき。もう一度鍋にオリーブオイルをしいて、ニンニクと鷹の爪をゆっくりと火を通す。小さめのみじん切りにしたニンジンとセロリを投入。炒めておいたタマネギも混ぜ合わせる。もうこの段階でおいしそうな予感が実感に変わる。缶詰のホールトマトを入れて、フライ返しでざく切りにする。少々の水を加えてキューブ状のコンソメスープの素を加え、黒こしょうを粗めにがりがりと挽く。月桂樹の葉を二枚加える。あとは弱火でことこと煮詰めるだけ。塩で味を調整。
一口味見をしたら居ても立ってもいられなくなって「味見」という名目の範疇だからと自分に言い聞かせながら、隣のコンロで鍋に湯を沸かし始めた。夕食の後だけど、ほんの少しだけペンネをゆでよう。
熱々のペンネにそれぞれの野菜の味がくっきりとしてさわやかなトマトソースを堪能。少々の手間をかけただけでこれだけおいしいものができあがる。最終的にこういう味にしたいと狙いを定めて作ってきたわけだけど、実際にそれを食べてみると思わずにんまりしてしまう。
もちろんこれは保存食だからタマネギと同じようにして最終的には冷凍庫へ収まる。かくして、今後への期待を残してタマネギ整理は終幕する。
旅行一週間前としてはこれだけやっておけば十分だろう。荷造りは当日でも十分。明日できることは今日しない。しかし、出発の朝に起きてトマトソースを作るわけにはいかない。
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