お買い物

 「明暗」というテーマでこんな文章を書いたことがある。
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 「なぜあなたでなければならないのか。姿形はさして変わらないではないか」
 原告の白菜が被告席に座るレタスを糾弾した。賛同の声をあげたのは、大根やゴボウや三つ葉や柚なんかだった。相手はトマトやセロリやレモンだった。
 とにかく、一度被告の意見を汲んで彼らを使ってみるように裁判官の勧告がなされた。
 午後の陽射しの中、緩やかな坂道を自転車で駆け下りる白いブラウスの女性。前かごに入った紙袋には、彼らが初の晴舞台に緊張しながらもおさまっていた。
 一時期は世間の話題をかっさらったCMだったが、そこで宣伝されていた商品の人気はすぐに下降した。そして、再びセロリやレモンが出演すると売れ行きも回復した。
 世間とはそういうものなのか。あるいはフランスパンとの取り合わせが問題だったのかもしれない。
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 土曜か日曜の夕方に近所のコープへ自転車をこいで出かける。一週間分の食料や日用品を仕入れるわけだから、それなりの量を買い込むことになる。普通のビニール袋だとどうしても強度に難がある。破れて使い物にならなくなるたびに、ちゃんとした買い物袋がほしいものだとなんとなく思っていた。
 昨今は、買い物袋を持参しましょうという意識が高まっているので、それに合わせるようにトートバッグなんかが販売されているが、どれもデザインや大きさがしっくりこない。布製だといかんせん汚れに弱い。ごくたまにだけど魚や肉のパックから汁が染み出すことがあるが、その都度洗濯するというのも面倒だ。紀伊国屋のエコロジーバッグを知ったときは心惹かれたものの、少々スノッブすぎる気がして購入には至らなかった。
 ところがつい最近、捨てたいけどなんだか捨てられない袋類を整理していてはたと気がついたのだ。空港の免税店の袋! 容量の大きさからクリーニングに出す服を入れるのに使ってはいたのだが、これが生鮮食品の買い物として最適なのだ。
 酒瓶が3本入っても大丈夫なように生地は分厚く作りもしっかりしている。汚れたらざっと水で流せばよい。底のまちがちょうど自転車のかごにすっぽり収まる大きさで、使い勝手は最高。
 僕が家でとる食事は基本的な日本食のパターンが多い。買い物の結果今日の夕食は、ぶり大根、身欠きニシンと白ネギの炊き合わせ、蓮根の甘酢漬け、水菜となめこのみそ汁、ご飯(胚芽米に麦)であった。どう考えてもフランスパンとは取り合わせにくい連中ばかりなのだけれど。


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