はる、ふゆ、ふゆ、はる。

 啓蟄も過ぎ、次第に暖かくなるかと思っていた。身体の奥深いところからなんとも言いようのない新たなエネルギーが湧き出す春特有の感覚がゆっくりと全身をめぐり、「何か新しいことができそうだ」という漠然とした自信が芽生え始めた。
 と、思いきや唐突の寒波襲来。三寒四温というよりも、三歩進んで四歩くらい戻ってしまった感がある。
 そろそろよいかなと思っていたコートを再び着用。ストーブの火も赤々と燃えている。数日間暖かい日が続き、ちょうど灯油もなくなりかけていたのだが、もう一度買う必要があるかもしれない。けれどもここで18リットル買っても急に気温がもどったらそれはそれで困るのだが。
 深夜のα-STATIONを聴いていると「大雪です」「積もってます」「北山は吹雪いてます」と。だけど残念ながら僕がその電波を受信しているところでは夜空に雲はなく何も降っていない。
 代わりにというわけでもないが、大陸から風に吹かれて来た砂がずっと街を漂っていた。日中でも空はどんよりと。外を歩くと髪はべとつくし、唇がぱさぱさになる。物干し竿にも砂が模様を描いていた。そのおかげで、あるいはそのせいで、夕陽は紅色だった。地中海の辺りでとれるオレンジの果肉のように濃厚な。
 なんてことを思った翌日に、大阪市内でも雪が舞った。積もることはないものの、窓の外には真綿をちぎったような雪片が柔らかな軌跡を描きながら空中を静かに降りていく。無数の雪にあらゆる音が吸い込まれたような静寂が周囲を包む。久々の風景だった。
 自転車のサドルに降った雪が一度溶け、そして夜には再び凍りついていた。
 先般京都でサークルの同窓会をやったのだが、その際、手袋を友人の家に置き忘れてしまった。仕方なしに指を折り曲げてコートの袖口で指先を覆って外を歩いている。ドラえもんのように丸まった手の先。
 しかし僕らの集まりも年々京都から人が減り、未だ残っているのは三人だけ。下級生を考えてみても、僕が四回生のときに新入生だった連中が基本的には学部を修了する。そして僕の妹も4月からは大学院生。いつの間にやら、という驚きと感慨がある。正門から続く銀杏並木のキャンパスを彼女も歩む。頑張ってほしいものである。
 今朝のニュースで、昨日春一番が吹いたと伝えていた。やはり着実に前に進んでいる。


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