旅人礼賛

 今年に入って立て続けに旅行者と会う機会があった。
 年末年始の一週間は、ソウルで同宿だった東京のTさんが遊びに来ていた。彼女はオーストラリアのワーキングホリデー経験者で、次はまたワーホリでニュージーランドへ行くのだそうだ。
 Tさんがメキシコシティーの宿で出会ったという人を含む南米旅行者三人組とわずかながら深夜に路上で立ち話しをした。ちなみにその人とは、先だって紹介した世界一周中の青山さんと以前婚姻関係にあった方。
 2月に入ると、2年間かけてアジア・中東・アフリカ・ヨーロッパを回ってきたKさんがウィーンからやって来て、これまた一週間ほど居候していた。バックパックは泥にまみれていたが、ご本人は意外にもこざっぱりとした格好で、相変わらずにこやかな笑顔を浮かべていた。彼女を見送ったのは5回生の2月のことだった。
 出発前夜に僕の友人も含めてはなむけの酒盛りをしたのだが、「翌朝の出発を寝倒すほどに酔いつぶしてやろう」という我々の邪な意図とは裏腹に、早朝にしゃきっと目覚め、逆にまだ頭のふらふらする僕を促して南港へ向かった。寒風吹き荒ぶ海辺から上海へ向けて出航した鑑真号のデッキ上の彼女に手を振った。
 Kさんがバンコクでよくつるんでいたという人が、姫路と高松から駆けつけて、我が家で共に鍋を囲んだ。カニや鮟鱇の入ったちょっと贅沢な海の寄せ鍋。大工のSさんが高松からバイクに一升瓶を積んできたのでそれを飲みながら。あてにつまんだあんきもとナマコが至福。
 Sさんが持ってきたオーストラリアの写真を見て、かなり心が揺さぶられた。「夏休み!」という楽しさが空にも海にも森にも人々の目の輝きにも溢れていた。
 そして3月。昨秋にバンクーバーへの短期留学に出かけ、アメリカ合衆国にも立ち寄り、そしてペルーへ行って来たIさんと昨夏ぶりに会ってきた。ご記憶の方もあるかもしれないが、4年前(もう4年!)、バンコクからインド北部を経由してカトマンドゥまで旅を共にしたIさんである。(詳細は「インド・ネパール編」に)
 神戸で日本酒を傾けつつぼたんえびのお造りやはまちのかまの塩焼きなんぞをつつきながら、語学学校で知り合った友人の話し(ビールが一緒に写ってる写真が多かった)や、ホストマザーのつくる料理の話し(よく食べたようで、当時の写真の彼女は顔が丸っこい)を聞かせてもらった。「めっちゃいい家族やったから、カナダでホームステイを考えてるなら紹介したんで」というありがたい言葉をいただく。滞在中に僕のことを話して、既に先方にはオッケーをいただいているのだと。
 アルバムをめくっていく中にあったマチュピチュ遺跡の写真。そして彼女の言葉「わたしな、ここからやったら飛べるかもしれへんて思ってん」。そういう瞬間に出会えるのは旅の醍醐味である。マチュピチュに吹く風が僕の身体も確かに駆け抜けて行った。
 旅をすることが好き、という共通項を持つ人々と、旅や人生について熱っぽく語るのはこの上なく楽しい。現れ方は人それぞれであるが、みんな溌剌たるエネルギーを陰に陽に有している。それは自身を導く原動力になると同時に、僕の心へも熱く流れ込み救いとなる。


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