君の名は

 そもそもはノートパソコンがほしかった。もちろんマッキントッシュ。学生の頃からずっとだ。マックには洗練された思想とセンスが貫かれている。そこへ、新型iBook登場のニュース。
 迷わずそいつに決めた。G3の500MHz、ハードディスクは10G、CD-R/WとDVD-ROMが使えるドライブが付属したモデル。画面もG4ほど広いわけではないが、1024×768の解像度。しかも出荷が始まった直後の発表では、UNIXベースの新しいOSXがプリインストールされるという。白い筐体も、品位があってそれでいて愛嬌に溢れていて文句のつけようがない。さらに僕にとって有用性を感じられたのは、非常に頑丈な作りになっているという点だ。タフな旅行にも耐えてくれるものが必要なのだ。
 発売日の一月ほど前から購入の予約は入れていたのだが、すぐには手元に来なかった。CD-ROMモデルを注文していた妹は早い内に入手していた。よけいにうずうずしながら到着を待つ。
 ようやく手元に届いて梱包を解いた第一声は、「かわいい!」であった。スノーホワイトの姿を透明なポリカーボネイトが覆っている。起動するとほのかに光が透過するアップルマークや、スリープ状態にしたときにはあたかも眠りに就く何かが息づくようにゆったりしたリズムで明滅するインジケーター。
 さてさて、それまで使っていたiMacからデータを移行し、各種設定を行い、OSXもいじってみよう……というあたりで問題発生。結果として「初期出荷不良」との診断でアップルへ戻ってしまった。
 さらに1週間半ほど待ってようやくと「明日、代替機をお送りします」との連絡。日中は不在だから、マンションの管理人さんに預かってもらうべく手続きをとる。帰宅していそいそと管理人宅を訪ねると「いえ、何もお預かりしてませんが」
 なかなか会うことが叶わず、ようやくまみえたかと思うと瞬時の邂逅でまた彼方へ。そして会えるはずだったはずの時に姿が現れない。まるで「君の名は」のようである。
 数時間後、ためしてガッテンを見ながらうつらうつらしていたら玄関のチャイム。管理人さんが「今届きました」とわざわざ持ってきてくださった。眠気も雲散霧消。ようやくの再会。もうどこにも離さない。
 で、各種設定とデータの移行。いろいろ新しい機能を試しながら、やっぱり使い勝手がよいと感心することしきり。メモリももともとの128に256を別に積んでいるから余裕綽々。
 何より、ノートパソコンを自分のものとして使うのは初めてだから、その「どこでも性」が楽しい。モジュラージャックから引っ張ってくるコードも新たに5mのものを購入しておいたのだ。気が向いた場所で気が向いた格好で使うことができる。この文章だって、ベッドに寝転がりながら打っている。
 さて、やはりこいつにも命名しなくては。初代Performa6210、二代目iMac DV SEともにmercuryと名付けてきたので、継承する。おごそかにハードディスクに固有の名前が与えられ、新生mercuryのためにグラスが傾けられる。
 その名前の由来は何か? ローマ神話では「マーキュリー(メルクリウス)」は旅人の守護神とされるからだ。これからの旅路に水星神の加護があらんことを。


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