風の行方
家電品、と一くくりにしても、その中には重要度の高低がある。洗濯機がなくても手作業でなんとかなるが、冷蔵庫がないからその代わりに氷室というのは現実的でない。携帯電話もあるし、インターネットはケーブルテレビに接続しているから、固定電話はなくてもそうそう困らない。テレビはそんなに必要性を感じないけれど、FMラジオがないのはちょっとなあ、と言ったように。
日曜の朝に掃除機をかけていて、警告のランプは点灯していないのに吸引力がどうも弱いのではないかと思い、カバーを開いてみたところ、どうしようもない不具合を発見した。紙袋のセットの仕方がまずく、内部にもうもうとほこりとごみが貯まってしまっていたのだ。これまで気付かなかったのが間抜けとしか言いようがないくらいに大量に。
手で埃のかたまりを取り出したらなんとかならないかと試してはみたのだが、すぐにその努力は無駄なことだと気付いた。細かいものは人間の手ではどうしようもない。蛇が自分の尾をくわえて食べ始めたらどうなるのかということと同じくらいに、掃除機そのもので掃除機の内部をきれいにするというのは矛盾した命題である。
そのまま開店直後のミドリ電化へ新しいものを買いに出かけたのは、掃除機の必要性が僕にとって中途半端ではないからだ。
店員の薦めもあって、シャープ製の最新型を選択。紙袋に集塵するのではなく、手元にある透明なプラスティックのカップに吸い込まれたごみが貯まるようになっている。これまでは単なるホースでしかなかった部分にカップがあり、またそこから突き出した角のようなハンドル部分はボタン一つで角度を変えられる仕組みになっている。なんだかそこだけを見ると、SFに登場するブラスターの類のようですらある。
特徴の一つが「サイクロン吸じん」だと説明書に書かれている。ゴミと空気を遠心分離して、空気のみを本体に吸い込ませるのだと。なるほど、実際にスイッチを入れて床の上を動かしてみると、強力さが手に感じられ、それを裏付けるようにみるみるゴミがカップに集まる。そして旋回する気流に乗って、それが渦を巻いている。命名としては悪くない。
しかし、サイクロンと言えばまず何より思い出されるものがある。仮面ライダーの乗っているバイクの呼称。その昔、勢いをつけて自転車をこぎ、惰性で走っている間にサドルに腹ばいになって仮面ライダーになりきった記憶も蘇る。1号と2号はサイクロン号で、これがV3になるとハリケーン号になる。力強く渦巻く風が正義の味方のイメージに合うのだろう。世界征服を目論むショッカーと戦う仮面ライダーは確かに正義の味方であったかもしれない。
だが、現実の世界において、二項対立の図式で自身の無限の正義を標榜するなどはあまりに安直である。日曜の朝の光の中で掃除機をかけることに喜びを見出す一個人として僕は、きな臭ささを帯びてきた昨今の風の流れに、ささやかながら反対の立場を表明する。
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