西の常識、東の非常識

 ここ最近、東京へ出る機会が多かった。都内を移動することの簡便性と、かかった費用を家計簿につける手間の少なさを追求して、パスネットとiO-CARDを利用している。前者は地下鉄と私鉄の、後者は首都圏のJRのプリペイドカードである。京急川崎とか、千駄ヶ谷とか大久保とかの駅名が裏面に記録されている。
 JRのプリペイドカードを関西では使用しないので、私鉄、地下鉄各社共通のカードについて東西比較の雑感を。
 パスネットを知ったときに、関東にも似たようなものがあるんだなあと思った。私鉄地下鉄それぞれの企業・自治体に関わらず、統一して利用できるプリペイドカードシステムを世界に先駆けて導入したのは関西である。現在は統一の名称としてスルッとKANSAIと呼ばれる。
 この二つのシステムに、関西と関東の違いが、ある意味、如実に表れている気がしてならない。合理性を追求するか、見てくれ・都合を優先するか、という根本的なスタンスの差である。
 最大の違いは、パスネットは乗車時に初乗り運賃を引く、という点である。スルッとKANSAIカードは残額が10円であろうと、改札機を通ることができる。降車駅で精算すればよい。ところが、関東のカードは初乗り金額に満たないと改札を通らせてもらえない。では、初乗り金額未満のカードはどうしたらよいのだろうか。
 これについては、都落ちした友人の一人でサンシャイン60で非人間的な労働に勤しむ、とあるSEが「切符の購入に自販機で使えばいいんですよ」と教えてくれた。これでは直接に改札を通れるという利点が台無しである。
 もう一つは、乗降車データの表示のされ方。関西では例えばこのように「0929:1950 阪急園田 HK西宮 ¥2820」 意味するところは明解で「9月29日の19時50分に阪急園田で乗車して阪急西宮北口で降車。残額は2820円」
 方や、パスネット。「X27 京急川崎13 KQ羽 *60」とある。「X27に京急川崎で乗車して初乗りの13が差し引かれて、京急の羽田空港で降車。残額は60円??」先ほどとなんとなく似てはいるけれど、補足が必要。
 大体、Xってなんやねん、と突っ込みたくなる。それはカードに記載されていて、X、Y、Zはそれぞれ10、11、12月を示すのだそうだ。なぜ表示用の桁数をもう一つ多めに確保できないのだ。二千年問題の教訓に依らずとも、月表示を一桁で収めなければならない理由は、少なくとも利用者にとってはどこにもない。 それに、「金額は10円単位です」という説明書きも利便性が不透明。表記の数字にゼロを一つ足して初めて金額表示の意味になるというのは面倒だ。初乗りの130円を引くことでそれを表示する必要が発生し、どたばたと連鎖的に醜いレイアウトになっている。ただ唯一評価点「京急」を「KQ」としているところにはユーモアが感じられてよい。
 あまり、「関西では……」と言うと、東京人からは「それって、コンプレックス?」なんてありがたくないコメントをいただくのだが、そんなことはないだろう。僕自身は小学校の低学年までは関東にいたし、無条件に関西を礼賛するつもりは毛頭ない。でも、少なくともこれについては関西の方が秀でている。とりあえず一つの例示。
 もう一つ。あなたは「551」をどう読みますか? 「ごひゃくごじゅういち」と読んだあなたは非関西人であろう。関西の人間はこれを「ごーごーいち」と読む。蓬莱という会社が売っている食品のブランド名で、特に豚まんが素晴らしい。
 阪急電車のあちこちの駅でも売られているし、デパートの食料品売り場などにも入っている。むちっとした皮につつまれたたっぷりの肉汁を含んだ具。独特の香辛料の香りが食欲を高めてくれる。かぶりつくと、ぷりぷりとした肉が脂を吸った皮と相まって、笑顔がこぼれる。一つ140円。東京方面で、これだけうまくて安くてどこでも買える食べ物、というのは僕は寡聞にして知らない。
 手間や金額と、得られるものとの均衡点にシビアな態度を有することは関西に暮らす人間にとっては必須事項なのかもしれない。


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