ケインズはシチューを好むのか

 必ずしも毎号というわけではないものの、「オレンジページ」をよく購読している。読み物としては読者の投稿欄が一番おもしろい。世の若奥様方が考えておられることや、日々悩んでおられることなんかがオレンジページっぽい文体で綴られていて勉強になる。
 もちろん、家事のちょっとした工夫や料理のレシピなんかはもっと具体的に有意義だ。一冊買うごとに、できるだけ何か新しいメニューに挑戦するように努めている。
 今回選んだのが「豆とソーセージのトマトブラウンシチュー」。作り方自体はどうってこともないのだが、具として大豆や金時豆、オクラが入るあたりが目新しい発想だ。
 家での食事の基本は野菜と魚と大豆製品なので、ソーセージを買う機会というのはあまりない。買い物に出かけたときに「ソーセージ、ソーセージ」と忘れないように唱えていたら、料理を作り始めてから肝心のトマトを忘れてしまったことに気付いた。仕方がないからとりあえずトマトなしでやっていく。
 ニンニク、セロリ、タマネギ、ソーセージなんかを炒めると湯気とともによい香りが立ち上ってくる。レシピには載っていないけれど、月桂樹の葉を加えておく。次いで2種類の豆を鍋に入れて煮立てる。ルウを溶かして、電子レンジで火をとおしておいたオクラを小口に切って加える。皿に盛って、タバスコを振りかけできあがり。
 そのときにふっと思った。「これって、ケインジアンぽいんじゃないか」と。だが次の瞬間「なんで、ここに経済学用語が登場するのだ?」と大いなる疑問がわき起こる。だが考えたってどうなるわけじゃないし、あまり積極的に煮詰めたい問題でもない。料理しながら空腹に流し込んだビールのせいで、頭の回路がどうにかなって発想が飛躍したのだろうということにしておき、こだわらずに食事にする。
 トマトがなくったって、悪くない。さっぱりとした中にソーセージの味が全体をまとめ、タバスコの辛味によって口の中は飽きることがない。オクラと豆の食感の違いもおもしろい。
 その夜たまたまかかってきた母親からの電話で今日の料理について教え、作ってみるようにすすめてみる。「そう言えば、ケインジアンってのが浮かんだんやけど、なんやろな」と何の気無しに話しをふってみる。するとすかさず彼女の言うことには「それって、ケイジャンじゃないの」
 やっぱり母は偉かった。なるほどそう言われればその通り。オクラ、シチュー、豆、なんてあたりの連想でアメリカ南部と結びついている。ケインジアン(Keynesian)はケインズ派の経済学者のことで、ケイジャン(Cajun)はルイジアナ南部の民謡や料理のことだった。語感が似ているということくらいしか共通点はないが、知識がいい加減だからこんなことになった。
 「ちょっとした勘違いもあったけど、料理はしっかりおいしくできたから大満足の夕食。これからもオレンジページを読んでがんばってレシピをふやすぞ!!」(兵庫県西宮市・かんちがいちゃん・24歳)


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