熱くて苦い自由貿易

 スターバックスというコーヒーショップの存在を知ったのはちょうど一年ほど前のこと。すぐに気に入りの店のリストに追加されたものの、しばらくはその名前をバックスバニーと混同していた。
 ドトールやサブウェイからファーストフード的安っぽさを抜いて、雰囲気をもう少し洗練させた店。かと言って喫茶店という言葉で想起されるイメージともまた異なる。今度は逆に素朴さと親しみやすさを付け加えたらよいかもしれない。いずれにせよ、新しい形態のお茶をする(と言ってもコーヒーだが)お店だ。店内はすべからく禁煙というのもありがたい。
 コーヒーのみならず、ショーケースに並ぶスコーンやサンドウィッチ、大きなガラスの瓶に入ったビスケットなども魅力的である。そこには「間に合わせでも、とりあえず何か食べておこうか」という理由だけで選択すべきものは並んでいない。
 先日、シアトルで開かれたWTOの会議は、様々な混乱の末に結論を見ることなく終了した。ニューズウィークでは巻頭特集で熱く燃える反対運動を伝えていた。
 最初のページに掲げられた写真では、窓ガラスが粉々に砕かれ、椅子やその他諸々が散乱した店内のカウンターを乗り越えんとしている女性と、フードをかぶりバンダナで顔を覆った人物が写っている。その頭上には、一部が欠け内側の蛍光灯がむき出しになった緑色のトレードマークがぶら下がっている。キャプションに「スターバックスなどのグローバリゼーションの象徴を、反対運動家はことごとく攻撃した」とある。
 あるいは一コママンガはこれまた3つとも全てWTOへの反対運動を描いていた。その一つには、プラカードを携えた活動家が少々デモを離れ、スターバックスの軒先で店員に「コスタリカ? グァテマラ? スマトラ?」とメニューを並べられている。分かりやすくてしかもおかしい。
 共に、なるほどである。
 もちろん考えることもある。だが、とりあえずそれはそれとして、何よりこれだけスターバックスの文字やらマークやらを目にすると、どうにも身体がうずうずしてしようがない。
  大阪のHEP5にあることを知ってはいたが、この気持ちに促されるように初めて出かけた。
 しかし残念ながら、店内は狭く席数が限られている。トレーを持ったまま、しばらくはどこが空くのかときょろきょろとしなければならない。飲み終わって雑談しているテーブルに「そろそろ、ええんちゃう?」と露骨な視線を向けるわけにもいかないけど、どうしてもちらちらと見てしまうし、席を探している別のグループの様子も牽制せざるを得ない。
 ようやく座れたと思ったら、せっかくの自由貿易はぬるくなってしまっていた。今度は新たな客から投げかけられる視線が、熱い。


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