楽園学舎

 チュラロンコーン大学での授業が始まった。僕のクラスは9人。全部で3クラスあるそうだから、30人弱が「基礎1」のコースを履修していることになる。1年後の「上級3」まで終えたのは、昨年は3人だけだったということを卒業生から聞いて、身の引き締まる思いだった。
 クラスメートの内訳は日本人が5人、アメリカ人2人、イラク人とインドネシア人が一人ずつ。男女比は5対4。アメリカ人とイラク人が同じ教室にいる、というのはなかなか希有な光景かもしれない。いや、僕が知らないだけで、意外にそんなこともないのかもしれないが。
 イラクの彼は、教育・科学関係の省庁の官僚だと言う。英語に訛りが少々あり、押しが強い。学ぶ態度はとても真摯である。
 日本人の一人の男性とは、大学も入学年次も同じだという偶然を発見した。しかし彼は商社からの研修生として来タイしているので、学費も生活費も会社持ちだとのこと。率直に言ってその点はうらやましい。
 授業は3人の先生が持ち回りで担当する。最もよく顔を会わせるのは、哲学専攻だというラチョット先生。最初の内は英語で講義されるが、彼にとっては英語は第二外国語で、メインはフランス語。そのせいか、まじめに聞いていると結構頭がぐらぐらしてくるような文法で話す。だが、まあ、理解には問題がない。
 「これまでのタイ語の学習経験はまちまちでしょうが、ここではゼロから始めます」ということだが、幸い僕は多少の背景知識があるので、今のところは比較的スムーズに進んでいる。
 家から大学までは歩ける距離なのだが、教室に着くまでに汗だくになってしまうので、バスを使って登校。こちらではほとんど自転車を見かけることがない。
 10時から始まって、11時半から12時くらいの間に午前の部が終わる。お昼はもちろん学食へ。安くて種類が豊富でとても楽しい。毎日違うものを食べているが、果たしてどれくらいの日数で制覇できるのだろうか。僕が通っていた大学でもそうだったのだが、やはり食堂ごとに名物というのがあって、文学部食堂は「麺類」なのだそうだ。
 ムスリムのための食事や、ベジタリアン用のメニューもちゃんと用意されている。消毒用に鍋に湯が沸かされていて、みんなそこにスプーンやフォークを浸してから使う。今日は、甘辛い味に揚げた魚のぶつ切りと野菜炒めとをご飯にのせて食べた。わずか14バーツ(42円)だった。
 まだ4日目が終わったところなので、クラスメートとの話題は「どこに住んでいる」「なぜタイに」「国では何をしていたのか」と言った、自己紹介レベルのことが続いている。その内には共通語がタイ語になるのだろうが、当然ながら今のところは英語を使う。
 1時間の昼休みを挟んで、午後の授業は3時まで。図書館やコンピュータ室などの種々の学内設備もこちらの学生と同じように利用できる。生協で文房具を買うのももちろん、郵便局やATMもあって便利にできている。また、キャンパス内や周辺部をバスが循環していて、2バーツで利用できる。均一区間を走るエアコンなしのバスが3.5バーツだから、やはり優遇されている。帰りはこれを使ってサヤームスクエアまで出る。
 さて、チュラ(このように略す)の雑感を述べてきたが、僕が最大のインパクトを受けたのは、文学部生の8割が女性だという事実。あまりに女性が多いので、何もないのに罪悪感を感じてしまうほどに。男子高で青春の3年間を過ごし、5年間の大学時代も男性の方が圧倒的に多いという環境だったために、これはもう毎日が楽園である。天使の都(クルンテープ=バンコク)の「天使」は、キャンパスを闊歩している彼女たちなのかもしれない。


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