警察署はどこですか
大酒を飲んだ夜、携帯電話を失くした。状況からすると、おそらくは盗まれた。でも、酔っぱらってたから何とも言えない。
翌日、僕のものであるはず番号に電話をかけてみると、誰かがとるけれど、すぐに通話を切ってくる。何度かしつこくリダイヤルしたら、留守電サービスに設定されてしまっていた。何にせよ、悪意のある第三者の手に渡ったことは疑いようがない。プリペイドのサービスを利用していたので、本体価格プラスまだ残っていた700バーツほどの通話料の損失。日本で持っていた携帯とは違い、まだまだアドレス帳に登録している番号も少ないので、その方向の被害は小さなものだ。
「警察署はどこですか」「トンローにあります」という教科書のような会話を交わして、出向く。
土曜の夜というためか、偉そうなおじさんが一人だけテレビを見ていた。「泥棒が私の携帯電話を持って行ってしまいました」と言うと、「隣の部屋へ行きな」と、少々横柄な態度で応答される。
数人の警察官が働く部屋で、先ほどと同じ間抜けなセリフを繰り返す。「泥棒が私の携帯電話を持って行ってしまいました」。つまりは「盗まれた」という表現を僕が知らなかっただけのことである。
「書類を書いていただけますか」と尋ねたが、これも本当ならば「盗難証明書を発行して下さい」と言いたかったのである。ただ、警察官はちゃんと分かってくれた。
茶色い制服を着た警官が、カーボン紙を挟んだノートを広げて、レポートを作成していく。
「お名前は?」「アワヅケイです」とパスポートを見せながら。「いつのことですか?」「昨夜の2時くらいです」「場所はどこで?」「アソークとスクンビットの交差点のバーです」「携帯のモデルは?」「ノキアの3310です」「滞在先は?」「パトゥムワンの……」
書類の最後に僕のサインも入れて、押印されたコピーを一部渡された。「ありがとうございました」と言って警察を後にする。ものの15分くらいのものだ。
別に、捜査とか発見とかは全然期待していない。後は保険金の請求。保険の冊子を見て、シンガポールのセンターにコレクトコール。日本語で事情を説明して、すぐにおしまい。請求はバンコクの代理店へどうぞとのこと。「保険金は2、3週間で振り込まれます」
決して正確ではないものの、タイ語のみで意志疎通をして必要な作業をこなせたことは、それだけを考えれば純粋にうれしい。でも、もちろん教訓も残っている。住み始めて2ヶ月が経ち、それなりに何とか生活も軌道に乗り、慣れて甘くなっていた部分があることは間違いない。
決して治安が良いというわけではない街に暮らしていることを再確認すべきだ。
それともう一つ。大阪だろうが新宿だろうがバンコクだろうが、飲み過ぎに注意。
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