国際都市

 バンコクは多分に国際的な都市だと思う。僕が暮らしているのが中心部で、よく乗るBTS(スカイトレイン)は一般のタイ人には運賃が多少高いというバイアスはあるものの、それでもそのように思う。耳に飛び込む言語や見かける人の服装や目の色なんかはバリエーションに富んでいるし、先日、眠れずにいた深夜に、まったく理解できない言葉で間違い電話がかかってきたり。
 旅行者もそうだし、こちらで生活をしている人もずいぶんな数になる。バンコクの日本人学校は世界最大規模なのだと聞いたこともある。
 僕のクラスメートを引き合いにしよう。ムエタイをやってるアメリカ人女性は、来年にもタイ人と結婚する予定。タイ人と結婚しているマレーシア人の女性はもっとすごい。結婚相手はタイ人だが、その父親は広東系。本人の母親は韓国人で父親は中華系のマレーシア人。彼女自身はオーストラリアで初等教育を受けている。そもそも結婚相手と知り合ったのが、留学先の北京。だから家の中の共通語は中国語。既に数カ国語を操れるイラクの官僚は、タイの次にはスウェーデンへ派遣されることが決まっている。
 先生の中には、以前ウィーンの大使館で働いていた人もいれば(母親は日本人、父親は中国系)、東洋哲学専攻の先生はその内フランスへ留学に出かけるのだとか。もう間もなくイギリスへ出立する先生もいる(美人のヌー先生だ、残念)。
 こうして色々の背景を持った人たちが暮らしていると、当然ながらその人たちに向けたサービスは商売になる。日本のテレビ番組を録画してそれをこちらに運びレンタルするという店には驚いた。著作権の精神からするととんでもない話しではあるが、テレビ好きな人にとっては貴重な娯楽である。
 そして、そこの国の人間じゃない僕としても恩恵に預かることができるのが、飲食店。先週末はたまたま見つけたレバノン料理を食べた。昨夜は前を通る度に気になっていた英国式のパブへ。
 ちゃんとしたレストランで料理を食べようとすると、一人だとしんどいものがあるけれど、飲み屋系ならば一人でも楽しめる。カウンターに腰掛け「ビター1パイント」ってタイ語で言ってみたら、「A pint of bitter」って英語で返ってきた。
 店の中はそっくりそのままロンドンに持っていっても通用しそうなつくりになっている。店員はもちろんタイ人だけど、客の中でタイ人らしき人は少しだけ。テレビではたまたまタイ人とイギリス人選手によるテニスの試合を流していた。ヒューゴ・ボスが一番目立つスポンサーだった。
 カウンターの中を見ていると、カクテルの振り方がちょっとぞんざいな気がするが、ビールは美味い。一パイント140バーツ。
 外国人である僕としては、お金については二重の標準を持って暮らしている。一日に使ったお金が全部で100バーツに満たない日もあるけれど、いくつかのことについては円換算した上で「まだまだ安いじゃないか」と納得することにしている。
 ゆるゆると3パイント分のアルコールを血液に溶かし込み、夕食はパブの近くに出ている屋台で「センヤイラードナー(米製の2、3センチ幅の麺と菜っぱと豚肉のあんかけ)」。お腹いっぱいになって、これで25バーツ。
 欲張りな人間にはとても幸せな街である。


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