シーズン到来

 京都にある日仏学館では、その瀟洒な庭を夏場にはビアガーデンとして提供していた。
 おそらく、ガイドブックではレストラン、ル・フジタのサービスについて記していることが多いと思うが、僕個人は喫茶は一度も試す機会はなかった。もちろんのことながら、コース料理を食べるということもしなかった。さらに言えば、フランス語の講座に通ったこともない。
 日仏学館と言えばビアガーデンであり、ビアガーデンと言えば日仏学館なのである。
 ビールと食料に餓えた学生が、その欲求を満足させるまで飲み食いしても、その界隈でのごくごく普通の値段だった。でも、出てくる料理は、ちょっと手がこんでいて、贅沢な気分も味わうことができた。
 夏が到来する少し前の夕方。我々がたむろしているボックス(部室)から、わらわらと自転車に乗り込み東一条を西へ、東大路を渡って北向きに。ものの2分ほどの行程である。テーブルをいくつか集めて人数分の席を確保。ビールはピッチャーで注文。
 どれだけ慎重に注いでも、ピッチャーからの最初の1、2杯というのは泡だらけになってしまうもので、結果として注いだ人間がそれについてやいのやいの揶揄されるというのもお決まりの光景だ。
 乾杯の頃にはまだまだ日が残っていたのが、次第に光量が減り、夏のたそがれがやってくる。白い光を当てられた噴水が涼しい。一度は、地上に出てきたばかりの軟らかなセミが身体に上ってきたことがある。そっと近くの木に移したものの、観察することなぞすっかり忘れてビールを飲み続けた。
 特に印象的だったのは、そこで働いていたおばちゃん。顔見知りというほどでもないのだけれど、何度か「ほら、これあげるよ」とその日の終わりくらいになって残っている枝豆なんかを分けてもらった記憶がある。こういうのは無性にありがたく感じる。
 暑い日の夜に屋外で風に吹かれながら飲む生ビールというのは、また格別なものがある。
 雨季が明けて、呼び名の上では「寒季」であるが、実のところ過ごしやすい。世界の終わりのような雨も心配しなくてもいい(のはずなのだが、実際のところ今夕もとんでもない大音響の雷を伴った雨降りだ)。バンコクはこれからがビアガーデンのシーズン。ワールドトレードセンター前にも、たくさんの机と椅子が並べられている。ハイネケンの広告塔がゆっくりと回転している。FMでも「快適でそれでいてスノッブな雰囲気。カールスバーグの生ビールをビアガーデンで」なんてCMが言っている。
 うちの近くのホテルのカフェでも、「ドラフトビアーフェスティバル」と店頭に掲げられた。
 さあ、出かけますか。  


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