ジュッターマート先生

 あっと言う間の土日だった。風邪が治りかけてはいるものの、完治にはまだ少し遠く、頭痛を抱えたままの二日間。ようやく日曜の夜になって、少しのアルコールで祝杯。
 週が開けて、大学の事務室に出向き、試験に通っていたことを知り、中級3の代金を支払う。その足で教室へ。
 中級2と3の間は、これまでとは違い、土日の二日を挟むのみ。先週はずっと試験前の憂鬱なプレッシャーを抱えながら、そして間の悪いことに不良な体調を半ば騙しながら、さぼっていたツケを払うべく机に向かっていたのだが、残念ながら完済することはできなかった。試験の結果も満足できるというものではなく、自分の現況を客観的な数字で改めて見たに過ぎない。
 踏ん張りどころである。何をしにここにいるんだ、という自問自答の解答はあまりに明確だ。今の僕を社会的に規定するならば「住所不定、無職(住民票は抜いているし、面倒だからと在留届も出していない)」、場合によっては「自称学生」くらいのものである。
 受講しているコースには初級、中級、上級とあり、それぞれに1〜3とステップアップするようになっている。すなわち、1年間で9コースが用意されている。僕は初級1から入ったので(比較的自由度は高い)、既に半分が過ぎ去ってしまった。同時に、あと同じだけ残っているということでもある。
 それぞれのコースに用意されたテーマがあるのだが、今回の中級3はニュースの理解である。渡されたテキストが、これまでで最も薄いものだったのだが、その理由はすぐに判明した。13日に配られた教材には、10日付けのニュースが用いられていた。時事的な内容がほぼリアルタイムで取り扱われる。
 週に二日は新聞購読にあてられていて、各人が「クルンテープ・トゥラキット(バンコクビジネス)」「マティチョン(人々の声)」紙から適当な記事をピックアップして、それを要約して発表する。宿題だからと新聞を読んでみたら、自分でも驚いたことに、内容が理解できるのである。もちろん完璧ではない、時間はかかるし、マーカーで緑に塗られた未知の単語はいくらでもある。それでも、言わんとすることは分かる。
 不思議な気もするが、当然ながらうれしい。辞書をめくる作業も、黙々と単語を書き連ねて暗記する作業にも張り合いが出てくる。理解とやる気の良い循環を保てるように努力しよう。
 さらに、その循環を加速する要素が出現した。このコースから僕らの授業を担当するようになった、ジュッターマート先生。わずかにたれ目気味、二重まぶた、目の下はふっくら。ハキハキと快活に明るいキャラクターで、ころころと笑う。しかも、微妙にアニメ声。気付いたら、授業中なのに自分の頬がゆるんでます。頑張ろうっと。


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