日出づる国

 今、履修している「中級3」のコースの主眼は、メディアで使用される言語の理解である。教材は各種のニュース。週に二日ほどは、授業で扱う題材を学生本人が新聞記事から選び、その要約を発表することになっている。
 「読むべきはマティチョン(人々の声)かクルンテープ・トゥラキット(バンコクビジネス)です。タイラット(タイ国)や、デイリーニューズといった新聞は扇情的な記事ばかりなので、薦めません。前者ならば、堂々と持ち歩いてよいですが、後者のような新聞では恥ずかしいですよ」
 と、まあ、多少誇張も入った説明なのだが、いわゆるクォリティーペーパーを使いなさいということだ。
 しかし、同じ新聞と言えど、日本との差異が興味深い。午前、午後の二回発行なのだが、午後分には翌日の日付が打たれる。最初に買ったときにおかしな気がした。また、授業でも指摘されたのだが、綴りの間違いや、文法の誤りというのが少なくない。その理由の説明は「情報提供を急ぐので、仕方ないです」というニュアンスで語られた。比較の問題ではあるが、日本では「急いだから間違えた」ということを表立った理由にするマスメディアはちょっと考えにくい。
 外国語で新聞を読めるというのは、一つの大きなステップであると思う。と言っても、僕が読めるのはまだまださほど複雑ではない記事に限られるのだが。これまでで採り上げたのは以下のような記事である。
 「ナコーンシータマラート県における、フィンランド人観光客殺害事件(バリ島のテロ以来、タイは観光方面でピリピリしているところに持ってきて、である。しかし記事を読むと犠牲者にも多少の非もなくはない。犯人たちは、犯行後、現場から1km離れたカラオケ屋にいたそうだ)」。「政府機関における電子入札の推奨(タイ国電子化推進事務所においてさえ、昨年の事例は2件であるが、これが華々しく記事になっている)」。「地下鉄開業まで後1年(日本企業との契約が反故にされ、結局シーメンスが扱っている。来年のソンクランに合わせて開業すると言うが、どんなものだろう。個人的には全駅にトイレが設置されることがありがたい)」。「タイの国土の断層の現況(先だってのスマトラ島を震源とする地震の影響で、バンコクでも高層階は揺れたらしい。その時間は13階にいたのだが、気付かなかった。地震の際に、という項目がまとめられているが、第一に『落ち着きなさい、慌ててはいけません』と非常に抽象的なことが挙げられている。日本人ならば『地震→机の下に隠れる』という現実的な対処が頭に浮かぶところだ。記事によると『結局のところ、やはりタイでは大きな地震はまず起こらない』らしい。歴史的には、チェンマイの86mあるチェディが60mにまで崩落した西暦1545年の大地震なども記録されている)」
 学んでいる中で、特におもしろく感じたのは、国の呼称である。日本でも例えば「サンバの国」と言えば、ほとんどの人の頭にはブラジルが浮かぶだろう。同じようなことを、通常の記事、例えば政治記事などでもよくやっているのである。その理由もふるっていて「おもしろく(サヌック・サヌック)考えようとするためです」
 「カンガルーの国」はオーストラリア。「白熊の国」はロシア。「龍の国」は中国。「獰猛な牛の国」は闘牛のスペイン。「風車の国」オランダ。
 「ビールの国」ドイツに「牛乳の国」デンマーク。「マカロニの国」はイタリア。同じ食べ物でも「ローティーの国」はインド。「タイ人は食べ物でイメージするのが好きなのです」と先生が冗談を交えながら説明してくれる。
 あるいは「生魚の国」。これは日本である。生魚という直訳ではなくて、意味を汲んで「刺身の国」とすると分かりやすい。日本にはまた、「太陽が出てくる方角の国」や「サムライの国」「サクラの国」という言い方もある。
 それでは、この記事で指摘されている国はどこだろう。「アメリカ合衆国は、赤い朝鮮人参の国がNPTから脱退することを非難した」。「赤い朝鮮人参の国」の南側の国は、対して「白い朝鮮人参の国」と呼ばれる。それぞれ北朝鮮と韓国である。
 最後に、直訳で「良い人の国」はどこになるだろう、しばし頭をひねってみて下さい。正解はこの後に白字で……。(→これ以降をマウスで範囲選択してください)「良い人」を「紳士」とすると分かりやすい、イギリスのことです。


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