聖なる日に

 人生における大きなイベントの一つ、結婚。その届け出を空の上でできたら、それは素敵なことだと思いませんか? しかも日付は2月14日、聖ヴァレンタイン。
 バンコク最高層の建物、バイヨークスカイホテル。その84階で、街を眼下におさめながら結婚の法的登録を行う。例年、実際に行われていたことだ。ところが今年は、行政側から人員の派遣を突然に断られた。西洋文化を支持するような民間イベントには協力しかねる、というバンコク府の政策に基づいた措置である。
 背景には、それよりもタイ人はもっと仏教文化に親しむべきという考えがある。バレンタインの翌々日は、マーカブーチャーの日(=万仏節:1250人の弟子が前触れなく釈迦の説教を聞きに集まった日)。仏教にとって大切な日であり、タイでは祝日になる。ヴァレンタインよりもマーカブーチャーであるべきだ、という。
 だが、その一方で、同時期に商業省主催で「タイのお菓子フェスティバル」が大々的に開かれ、開会式にはタクシン首相も出席することになっている。このイベントの意図が「タイのお菓子に国民の目を向け、ヴァレンタインの日には、ぜひタイのお菓子を贈り物に」となっている。
 上記二つで、方向性が矛盾している。
 同時にもう一つのちぐはぐなこと。バイヨークスカイを管轄するラーチャテウィー区は昨年までの態度を翻したにも関わらず、バーンラック区では14日の当日に宝石フェスティバルが開かれ、こちらにはバーンラック区からの支援もなされる。
 その説明は「いや、バーンラックの方は事前からずっと協議も行われていたことだし……」と、少々歯切れが悪い。
 この事件に対して、様々の意見が出ている。例えば「タイはそもそも様々な文化を吸収して独自性を創り出してきた。ヴァレンタインはもはや世界的な文化である。既存の文化とうまく混ぜ合わせることもできるないだろうか。朝方にはマーカブーチャーの日らしく僧や寺に寄進をして、午後にはヴァレンタインの日として愛を交わすということも考えられるだろう」
 と、2月7日付けのマティチョン(タイの新聞)を読んでいて、この部分で思わず笑ってしまった。あまりに突飛な考えに思えたからだ。でも直後に「タイならあり得る話しかもしれない」と妙に感慨深く思ったことも事実である。
 14日に結婚登録をするカップルはそもそも多いらしい。どこの区に届けを出してもよいことになっているが、一番人気は先のバーンラック区。「ラック」は「愛」という意味を持つからだ。
 逆に、「私の住んでるバーンプラット区には、誰も来ないわよ」とシッティクン先生は笑いながら説明した。「プラット」には「落ちる、分かれる、失くす」という意味があるからだ。
 ところで、僕にとっての2月14日は「中級3の試験」の日である。幸か不幸か。

  *お断り
タイの行政制度では、バンコクとパタヤにはある程度の自治が認められている。日本になぞらえるならば、東京特別区に似ているかもしれない。日本語に訳したときに「バンコク府」というよりもふさわしい、一般的に定まった用語があるのかもしれないけれど、日本語との対訳で頭に入れているわけではないので、半ば勝手に「府」という語を使用したことをお断りしておく。「ラーチャテウィー区」などの「区」も同じである。


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