次は、
コースの最後である僕らの上級3と半年後から始まったクラスの中級1、さらに開講されたばかりの初級1とが先週の5日間並行して展開されていた。ふと初級クラスの横を通ったら、僕も授業を受けたことのある先生が自分の名前をローマ字でホワイトボードに書いていた。
僕にとっても、つい1年前の話しである。
この1年間でのタイ語能力の上昇というのは、自分にとっても驚くほどだった。でもそこには、それなりに高い壁があった。特に中級2と3のコースが最もハードだったと記憶している。何せ毎日の新出単語が100語を超えることもあり、翌朝には確認テストが課せられる。どうしたってそれだけ覚えられるわけではない。だけど、そういった、能力を超えた努力というのは、何事にせよある程度以上を身につけるためには必要不可欠だ。
金曜日に文学部長から証書をいただいて、タイ語集中コースを修了。最後の最後まで気を抜けない課題量だったので、「終わった!」という前向きな解放感よりも、「抜けたぁ」という地味な感慨の方が遙かに勝っていた。
それぞれの学生が今後の抱負をスピーチする。曰く「タイ語を仕事で活用する」「タイ関係のNPOで働く」「タイを学ぶ大学院で研究する」などなど。僕の場合は「卒業したものの、何をするか、あるいはどこに住むかすら決めていません。でもまあとりあえず、この国が好きです」というなんともふにゃっとしたものであった。
振り返って思うに、僕にとってこの1年は完全に趣味に浸った時間である。タイ語が直接に何事かにつながるわけじゃない。そういう体験をすること、そういう方面に頭と時間を使うことそのものの愉しみの追求だった。視点は旅人のそれであったと思う。
さて、何をするか、である。とりあえずはかねてより計画していた漫画喫茶へ。土日で一軒ずつ訪ねてみたのだが、残念ながら思っていたほどの蔵書量ではなく(古典的名作をいくつか読破しようと目論んでいたのだが、基本的にここ数年のメジャーなものが並んでいるだけだった)、この計画は不発に終わる。
ここ数日はずっと曇天。日本の梅雨のように雨がしとしと降っている。バンコクの雨季には少し似つかわしくない。物をじっくり考えるには悪くないのだが、いかんせんそれ以前に気持ちが乗ってこない。
住所不定無職の4日目。やっぱり今日も空は一面に隙もなく薄い灰色。昼過ぎ、サイアムディスカバリーにあるベーカリーカフェにそそられた。気分転換にと、「ステーキ&チーズ」という豪勢なサンドウィッチとアイスコーヒーのセット。
少しだけ上向きになりかけた気分をさらに引っ張り上げるべく、エスカレーターで上の階へ。ロフトを含め、雑貨屋を何軒かハシゴする。別段買うべきものがあるわけではないけれど、パステルカラーやユニークな形状の品々を目にしていると気持ちが浮き立つ。雑貨屋の効用は、何もちょっとおもしろい品が手に入るというだけでもない。眺めて、自分が使うところを想像して、それが十分に楽しい。
目を惹かれる中には、購入意欲をそそる物もあるのだが、この手のものを無計画に買ってしまうと、かえって後々に無惨なことになる。個々の品は良いものでも、部屋に持ち帰ったときの統一感を考慮しなければならい。雑貨屋の棚に並んでいるからこそかわいくもあり欲しくもなるのだが、自分の家で実用するという現実がより重要なのだ。いずれにせよ、生活の方向性が決まるまでもうしばらく我慢する。
ぶらぶらしてはいるのだが、幸いなことにこんな僕でも多少は必要としてくれる所があり、とりあえずはそれら日々の社会的活動をこなしていく。日本から友達が遊びに来る予定もいくつかある。まあ、そういう中でなんとかジタバタしていれば、また次の展望も見えてこよう。
この次、地球のどこで暮らすことになるにせよ、近所に雑貨屋があるような生活がよいなあと思う。
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