バンコクオリンピック
スワンナプーム空港。ドンムアンに替わるバンコクの国際空港として開港しておよそ10年。僕たちは、全日空便のボーイング7E7で降り立った。空港ビル内の地下駅からBTSに乗り込み、西を目指す。
当時、スクンビット線はオンヌットまでだった。バンコクの中心部を外れたような長閑な場所で、民家が建ち並ぶ中に空き地も少なくなかった。目立つ建物と言えば、巨大スーパーマーケット、ロータスくらいだった。
その記憶に従っていたばかりに、ずいぶんと風景に驚かされた。この辺りにもぎっしりと高層ビルやマンションが建っている。
サイアム駅で乗り換える。北側に隣接した高級ショッピングセンター、サイアムパラゴンが威容とも言えるほどの大きさでそびえている。確かここには、東南アジア最大の水族館も入っているはずだ。ちょうど2002年にバンコクに住み始めたのと同時期に、この場所に建っていたインターコンチネンタルホテルの取り壊し工事が始まった。更地になり、そして、長い間工事が続いてた。
シーロム線に乗り換えて一駅。「国立競技場」駅は、「オリンピック競技場」駅とその名を変えていた。
「ほら、向こう側すぐに細い路地が見えるだろう。チュラロンコーン大学に通っていたときは、あの奥のマンションに1年ほど暮らしていたんだ」
当時、競技場の前を走るラーマ1世通りは、いつも排ガスが白く漂っていた。バスを待っているだけで喉が痛くなるほどだった。
だが、この整然とした様子はどうだろう。象の形に刈り込まれた中央分離帯の並木は、煤けることなく緑色を輝かせている。滑らかに走る水素エンジンのバスは、停留所にきちっと列を作って待つ乗客を拾っていく。BTSと地下鉄網の整備延長により、バスの台数もずいぶんと少なくなったそうだ。
マーブンクロンセンターの前で、客待ちをしながらエンジンを噴かしていたトゥクトゥクの姿が見えないのは少々さみしいが、いずれにせよ整った公共交通ときれいな空気はありがたい。
チケットを示して、競技場に入る。大観衆が熱狂の予感を輝く太陽に負けじと発散している。事前に新聞で読んだのだが、過去のメダリストたちもこの場に招待されているのだそうだ。
そう言えば、アテネのときは、重量挙げのウドムポン・ポンサックが、タイ女性初の金メダリストして、大いに話題になった。全体では、金3、銀1、銅4の歴史的快挙だった。中でも僕は個人的に、テコンドーで銅メダルを獲得した「ウィウちゃん」こと、ヤオワパー・ブラポンチャイを応援していた。目の下がぷっくりして、短い髪の毛で、ずいぶんと好みの感じだったから、というだけの理由だが。
僕はこっそりと、視線だけを動かして彼女の姿を探した。妻は、そういうところにはすごくうるさいのだ。いた。きりっとした、それでいて人なつっこい顔立ちは変わっていない。31歳、今ではタイ代表の主任コーチを勤めているそうだ。
あの2004年頃から、バンコクを中心としてタイは大きく躍進した。名物でもあった洪水や、交通渋滞、それに基づく大気汚染などの各種問題を、驚くべきスピードと確実性で一つずつクリアしていった。「大雨で洪水していたもので」「渋滞がひどくて」という言い訳は、既に過去の遺物だ。
でも、だからと言って時間に鷹揚なところは、さほど変わっていないのだ、と、2度目の駐在でこちらに暮らすチュラ時代の同級生が苦笑いして言った。
今回、彼の誘いで久しぶりにバンコクを訪れた。「せっかくなんだから家族で来たらいい」と計らってくれて、随分と眺めのよい席を4つ押さえてくれたのだ。
歓声がひときわ高鳴った。僕は、隣に座る娘たちに話しかける。時々、おしゃまなことを言う年齢になってきたが、今は一心に目を輝かせている。
「ほら、聖火ランナーが走ってきた。バンコクオリンピックの開会式が始まるよ」
2004年9月2日付「ポストトゥデー」
『タクシン首相、オリンピック開催を目指すよう指示』
政府は、12年後の2016年のオリンピック開催(に立候補すること)を発表した。(タイは開催国として)ふさわしい資質があると確信している。今後、鉄道、道路網の整備を加速する。
昨日、チャクラポップ・ペンケー官房長官が、閣議の後で以下のように述べた。「タクシン・チナワット首相は、スワット・リップタパンロップ副首相に、タイが西暦2016年、すなわち仏暦2559年のオリンピック開催国となるべく、行動をとるように指示した」
<参考リンク>
・Suvarnabhumi Airport
・BOEING 7E7 DREAM LINER
・2004年4月26日 全日空プレスリリース
・Bangkok Mass Transit System Public Company Limited
・bangkok city hall official site
・THE OFFICIAL WEBSITE OF THE OLYMPIC MOVEMENT
・PostToday(タイ語)
・Royal Thai Government
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