虎でひとっ飛び
この週末に、シンガポールへ遊びに行って来た。8年ぶり、2度目であった。
つまるところは、高校の同級生と飯を食って酒を飲む、というのが主眼の旅行であった。彼が10月に任期を終えて帰国することになっており、「せっかくだから、いる間に一度遊びに来いよ」と誘われていたのだ。
僕が共学の高校に通っており、シンガポールに暮らす同級生と言うのが、当時ほのかに思いを寄せていた女性であったのならば、それはもう、誘われなくとも飛んでいたであろう。
だが、現実はなかなか薔薇色には染まらない。男子高に通った僕の同級生と言えば、必然的に男である。「え〜、わざわざチケット取って行くのものなぁ。こっちから行かんでも、お前が出張でよくバンコク出て来て会ってるやんか」というのが、ここしばらくの偽りのない思いであった。
だが、そこを踏み越えることになったのは、非常に安価な航空券が手に入ったからである。これはもう、用事がなくても飛ぶだろう、というほどに安い。バンコク・シンガポール間は、およそ2時間。それが、往復運賃、航空保険料、税金等全て込みで、日本円換算の価格がおよそ8,500円。
ここ最近、東南アジアに格安を謳う航空会社が勃興している。エア・アジア、オリエント・タイ、ノック・エア、バリューエア、それに今回利用したタイガー・エアウェイズ。
極力、不必要なサービスを排除し、低コストを追求する。タイガー・エアウェイズは例えば、機内の飲み物や軽食は全て有料。ビジネスやファーストと言った別がない。FFP(Frequent Flyer's Program)もない。予約はオンラインでクレジットカード決済。
機体の運航にも無駄を省く。チャンギからドンムアンに到着した機体が、30分後にはまたチャンギへ向けて飛び立って行く。
中古かと思いきや、新品の匂いのするエアバスA320であった。座席は自由席。いそいそと前方の窓際を確保する。
新聞や雑誌のサービスも、機内誌もない。目の前のポケットに収まっているのは「安全のしおり」だけである。吐瀉物袋すらない。機内放送を聴くためのヘッドフォンもない。シートの頭の部分には、カバーがない。座席の下に手を伸ばして救命胴衣を探ったら……これはさすがに備え付けられていた。
頭上の荷物入れには、ビザカードの広告が掲げられている。「浮いた航空券代で、もっとショッピングを」
1902年8月。ラッフルズホテルの敷地内に逃げ込んで射殺されたのが、シンガポールの虎の最後の一頭である。それからおよそ100年後、タイガー・エアウェイズがマレー半島を飛ぶ。
随所に虎が意識されている。尾翼が虎縞に塗られているのは序の口。客室乗務員は、白いブラウスの襟元に、黄色地に黒い虎縞模様のスカーフ。彼女たちの頭には、それと同じ柄の三角形の耳が二つちょこんと乗っかっている。後ろを向くと、黒いスカートから細い尻尾が揺れている。
搭乗に際してのアナウンスが流れてくる。
「本日は、タイガー・エアウェイズをご利用いただき、ありがとうございます。当便の機長は、ランディ・バース。チーフパーサーは、うち、ラムだっちゃ」
<参考リンク>
・AirAsia
・Orient Thai Airlines
・Nok Air
・Valuair
・Tiger Airways
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