なんだって
例えば、もうつき合っているのか、それともまだ仲の良い友達でいるのか、関係が微妙な段階の相手と、ちょっといい雰囲気の、居酒屋なぞへ行って。
「お飲み物のご注文は?」
「とりあえずビールください」
グラスをチンと合わせて、乾いたのどを潤す。突き出しをつまみながら、互いの近況や共通の知人の動向などを話してみたり。
メニューを詳細に検討して頼んだ皿が運ばれてくる。何度か、ビールをおかわりする。
二人の話題も次第に個人的な話に狭まってくる。
「最近、こんな本を読んだんだ」「おもしろそう、貸してもらっていい?」
「今度、行ってみたい場所があるの」「いいね、週末でもどう?」
程よいアルコールが、ふとしたことで二人の間に陽気な笑い声を弾けさせる。向かい合う二人を包む、期待の密度が自然と高まる。
グラスが空き、メニューのドリンク欄を眺める彼女が「次は……」と何かを注文したげな素振り。分かってるよ、とでもいいたげに、「ビールを2杯」と。
お腹もいっぱい。愉快な流れはさらに加速して、静かなバーへ。
「どのカクテルにしようかな」と悩む彼女をよそ目に、バーテンダーに向かって「ビール、2杯」
カウンターに腰掛けて並ぶ二人の肘が、そっと触れる。慌てて、「あ、ごめん」
たぶん、二人とも窺っている。さっきから、食べたくもないピスタチオの殻を、割ってばかり。
でも、時間は容赦がない。
「あたし、そろそろ……」と時計を気にする彼女に、僕は言う。
「あ、そろそろビールもう一杯?」
何かが間違ってる。だけど、ビール好きとしては正しい。
「とりあえずビール」だし、「じゃあ、この辺で、ビール」だし、「もう一軒、ビール」だし、「あたし、そろそろ」も、やっぱり続くのは「ビール」
「じゃあ、また、土曜日に」にも、当然「ビールを飲むんだよね」と返事する。
枕詞はなんだって、その先にはビール。
三連休の二日目。たっぷり寝て、目が覚めたらもうお昼前。起き抜けに、冷蔵庫から取り出した缶ビール。ああ、プーケットは今日も暑い。
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