サイアム・パラゴン

 Paragon:模範, 典型; 逸材, 逸品; 100カラット以上の無傷のダイヤモンド; 特大真珠; パラゴン[20ポイント]活字(EXEED英和辞典)

 BTSのサイアム駅の北側には、3年ほど前まで、サイアム・インターコンチネンタル・ホテルが建っていた。
 かつて、閉館の2ヶ月ほど前に一度だけ宿泊したことがある。
 建物の裏には、都心にありながら、ちょっとした公園というほどの広さの庭があり、ぐるっと散歩するのにちょうどよかった。よく整った庭園には孔雀も放たれていた。
 バンコクに住み始めてすぐに営業が終了し、取り壊しが始まった。日に日に姿を消してゆくかつてのホテルの姿を、マンションのベランダから、ビルの合間に眺めたものだ。
 そしてその跡地に、12月9日9時9分(その発音が「進歩・発展」を意味する語と同じなため、「9」はタイ語で縁起が良い数字)に部分開業したのが、サイアム・パラゴン。
 売り場面積50万平米を誇る国内最大の高級ショッピングセンター。見込まれる一日当たりの来客数は10万人強。キャッチコピーは「バンコクのプライド」
 翌日の土曜日、さっそく足を運ぶ。
 3連休の初日ということもあり、人出は相当だが、思ったほどではない。マーブンクローン・センターにせよ、サイアム・スクウェアにせよ、わらわらと人が集まっている光景には見慣れているからかもしれない。何せ、平日昼間でさえ、東京から来た人間をして「こんなに人がいるなんて」と絶句せしめるほどなのだ、普段から。
 入り口の床のタイルはところどころ嵌っていなかったり、階段の工事が続いていたり、噴水の水が濁って泡立っていたり、何より「カミング・スーン」を掲げた店がやたらと目に付く。シネコンや、オペラ劇場もまだ先のこと。
 「とりあえず開けましょう」というソフト・オープンだから、そんなものだろうか。全てが揃うグランド・オープンは来年の2月になる。
 目新しい遊び場所を覗きに、というのは実は副次的なことで、一番の目当ては、東南アジア最大とうたう水族館、サイアム・オーシャン・ワールド。
 こちらも、かなり待つことを覚悟していたが、20分ほどであっさりと入場。
 入場料の450バーツとは別に150バーツが必要だが、大水槽の上をグラスボートで回れるというのが、珍しい体験だった。
 ペンギンは水槽の向こう側ではなく、こちら側に何羽かじっと立っていた。人形である。報道によると、鳥インフルエンザを考慮してとのこと。代わり、に日本産のアザラシが二頭、冷たい海水の中をすいすい。
 普通に見て回って2時間弱。
 海遊館と比較すると、個人的感慨は75%ほど。今後、よほどの変化がない限り、次に訪れるのは1年後でいいやと思う。物足りなさも残る。
 せっかくの大水槽をくぐるトンネルも、水の透明度が今ひとつ。複数の水槽で、何匹かは水底に横たわったり、あるいは海面に浮かんでいるのを見た。都市部にあるため、新鮮な海水の供給が楽ではないという事情もあるかもしれないが。
 多少の驚きを伴って僕の目に映ったのは、携帯電話やデジタルカメラで記念写真を撮る人の非常に多いこと。魚の水槽はあっちでもこっちでもフラッシュが(どうかと思う)。
 水族館を出ても、撮影はあちらこちらで。館内に展示されているランボルギーニと共に。エレベーターホールの噴水の前で。日が暮れた後は、黄緑色のレーザー光線が舞う中、大きく真っ白なクリスマスツリーを背景に。
 地元の人にとっては、単なるショッピングセンター以上の意味を持っているようにも思える。
 ただ、僕はふと思う。芝生の上で華麗な羽を広げていた孔雀たちは、いったいどこへ消えたのだろうか。

参考
 SIAM PARAGON
 Siam Ocean World


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