ソムタムをつく
ひょんな縁で招かれた知人宅でのクリスマスパーティー。風船や灯篭で飾られた広い庭の片隅には、ちょっとした噴水が備わった池まである。参加者は30人ばかり。タイらしく、テレビとVCDも持ち出され、カラオケができるようになっている。
基本はバーベキュー。大きな牛肉の固まりが、炭火の上で焙られている。それに、「ここはシーフードレストランですか?」というくらいの種類と量の魚介類が、氷の上に並んでいる。
クーラーボックスの中の氷に埋まってよく冷えた缶ビールをもらい、蒸したカニをほじったり、切り分けた肉にかぶりついたり。
そんな中に、ソムタムもあった。臼と杵が卓上に用意され、周りには材料が並んでいる。未熟のパパイヤの千切り、プチトマト、ササゲ、干しエビ、ピーナツ、トウガラシ、ニンニク。ナンプラー、マナオ、ヤシ砂糖。
周りにそそのかされたこともあるが、何より一度自分の手で作ってみたいと、長らく思っていたので、いそいそと。
まずは基本となる味を作る。ニンニクをつぶし、トウガラシを加え、パパイヤを一つまみ。各種調味料で味をつける。
「日本人がソムタム作るんだ」と、横からアドバイスをくれる人がいる。「トウガラシはよくつぶして」「ささげは手でちぎって」「ナンプラー、それくらいでちょうどいいよ」等々。
最後にどさっとパパイヤを投入し、全体をつきながら、よく混ぜ合わせる。
お店で見ていると、片手に杵、片手にお玉を持って、叩いては混ぜ、叩いては混ぜが、とてもリズミカルに行われている。
簡単なもんだと思いきや、大間違い。僕の動作にはリズム感のかけらもなく、ひどいときには汁が周りに跳ねる。
少しつまんで味見。なんだか、思っている味とは違う。周りの人も「酸っぱいね」「甘さが足りない」と教えてくれるので、修正を図る。再びかきまぜて、もういいだろうと皿に盛る。
ソムタムの真骨頂は、少しくたっとしたパパイヤに、甘味、辛み、酸味、塩味のバランスがとれた調味液がしみこんでいる、いわば「半漬け物」的な風情にある。
なのに、自分で作ってテーブルに運んだそれには、味が全然しみこんでいない。しかも、それぞれの味が、まったくなじんでいない。腕の悪いバーテンダーが振ったカクテルみたいだ。
例えば日本料理であれば、だいたいのことはある程度さっと美味しく作る自信はある。鰹だしの具合も、塩と醤油と味醂のあんばいも、材料ごとの火の通し加減も、それなりに身に付いているものがある。
あまりに鮮やかに手軽に作られ、そこかしこで安価に提供されるソムタムに、何とはなしに慣れていたつもりだが、それはあくまで食べる側としての話。作る側としてのバックグラウンドは皆無だった。
正直、ソムタムを低く見ていたことに、今更ながら気づいた。改めて、普段口にするソムタムという料理に恐れ入った。
同じテーブルに着いた人たちが、好奇心と親切心から手を伸ばしてくれたが、最初の数口だけ。
結局、責任感と意地から、僕がビールの合間にもさもさと食べる。トウガラシをかじってしまい、頭から汗が噴き出した。
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