サトー炒め
南部料理でよく使うサトーという豆をエビと炒めたものが、サムイ島の中華系のタイ料理店で美味しかった。
見た目は空豆をちょっと扁平にしたような感じ。独特の匂いがあって、それは少しひねた感じと言うか、古びた青臭さと言うか、嗅覚がねっとりとなでられていくような気がする。
例える先が、とっさにチャオムしか思い浮かばない。卵焼きに混ぜ入れたりする、タイの小さな青菜である。
もう少し身近なところで考えると……食事の話題に甚だふさわしくないのだが、古い日本家屋の便所裏の日陰に漂っている空気感……。ただ、まあ、そこが美味しい。
火が通っていても、空豆のようなほくっとした感じはなく、むしろ「コリコリ」と表す方が近い。かなり若いものを食用にするのだろう。
一緒にダイビングに行った内の一人が、バンコクで見かけたと家に持ってきてくれた。青々したさやに入った状態で40センチほどの長さがある。和名では「ネジレフサマメ」と呼ばれる通り、さやが捻れている。まるでDNAの模型のごとく。
先日食べた料理を思い浮かべながら、炒め物を一品作ってみる。
「生で食べる人もいる」と言われたので、皮むき作業の途中で一つ口に放り込んでみる。が、奥歯でかじった瞬間、例の臭みがあまりに強烈で、思わず吐き出しそうになった。好きな人は好きなんだろう、と思う。口や鼻から消え去るまでに結構な時間がかかった。
それぞれの豆がさやにぴっちりと密着していて、むくのが一手間。何とかむしり出したと思っても、まだ薄皮もある。
ちまちまと指を動かし苦闘している内に気付いたのが、つるりとした緑色の豆に、針で刺したような小さな穴が見受けられる物がある。包丁で半分に切ってみて納得。白く小さな芋虫の類が丸まっていた。これまでにむき終わってざるにあげた分を改めて見てみると、少なくない数が虫食いだった。しょうがないので、そういうのはよけておく。
と、ふと、そう言えばさっき丸ごと口にした分はどうだったのだろう。いや、まあ、先住者がいたとしても、もう胃袋の中だ。どうしようもない。
カピ(蝦醤)と炒めるのが普通らしいが、家には常備していないので、適当にやっていく。
ごま油をしいたフライパンに、包丁で叩いてから粗みじんにしたニンニクを弱火にかけ香りを出しておく。頃合いにサトーを投入。ついでに冷蔵庫にあった生キクラゲを細く切って混ぜる。味付けはナンプラーとオイスターソースとコショウ。
エビはないが、何か海の物をと、缶詰のシーアスパラガス(細長い貝。塩味のついた水煮の状態で売られている。見た目はちょっと「ニョロニョロ」っぽくてどうかと思うが、味はどうして旨味が濃い)を一緒に炒めてみた。
だいたい予想通りの味に着地した。白いご飯とも合う。幸い、加熱によって匂いもずいぶんと大人しくなってくれた。個人的には、これくらいなら美味しいと思う。
ただ、チャオムと同じく、翌日しばらくその匂いが尿に残る。
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