クーデター勃発

 大事なニュースの第一報は、またも人づてだった。あの、インド洋大津波のときも、喫茶店でコーヒーを飲んで休日の午前をのんびり過ごしていたときにダイバーの友達から電話が入った。
 そして今夜午後10時過ぎ。タイ人の友人と一緒にうちで食事をしようとして、ビールの最初の二口めくらいを口に運ぼうとしていたまさにしていたその瞬間、その友人の携帯が鳴った。そして、表情を変えて僕に言った。
 「大変、クーデターが起きたって」
 実は、うちにはテレビがないので、とりあえずラジオとインターネットのニュース。ラジオでは、軍関係の歌が流れていたが、通常の番組を流しているところも多かった。CNNでは、最初はアジアのコーナーに。そしてすぐにトップページに一行速報が出た。「戦車がバンコク中心部に向かっている」
 この場合中心部とは、政治の中心部であるドゥシット地区や、ラーチャダムヌンクラン通りの辺りだろうと解釈する。僕が住んでいるスクンビットからは、道が空いていても20分はかかる距離なので、一息。
 噂を広めるだけになるのか、情報提供か、とりあえず知らないよりはよいだろうと思い、バンコクの親しい友達に電話をかけたら、半数くらいは既に情報を耳にしていた。
 近所のコンビニへ、食料を調達しに(普段の火曜なら冷蔵庫にもう少しあるのだが、週末に日本なので在庫一掃にかかっていたところだった)。
 しかしこういうとき、何を買うべきなのだろう。結局、水を2リットルほど。家にはまだ10リットル以上あるので、気休めだ。保存食としてツナ缶。ただし、これも家にもある。インスタントラーメンに甘い物としてオレオ。
 自分でもよく分からなかった。正答がセブン・イレブンにあるのかどうかも定かではない。家には、米はもちろん、うどんやそうめんもある。生鮮品の手持ちがない、というだけなのだ。せめて、と思って卵を買ってみた。その足で、ATMでバーツの現金を多少下ろして帰宅。
 日本は午前1時前なので寝ているだろうと思い、それに少なくとも僕の周りでは緊迫している風はないので、両親と妹には、とりあえず携帯メールを打って無事を通知。
 急ぎ車に乗って帰宅の途についた友人の状況を携帯で確かめると、「大渋滞。道路の封鎖が始まっているそう」とのこと。
 タイでクーデター。
 この国の現代史をかじったことのある人間として、あり得る話だと、ぼんやり頭の片隅に常置させてはいた。バンコクで車にひかれる確率よりは低いけれど、乗っている飛行機が落ちるよりは高い範囲にある可能性として。
 最近の政治情勢(首相への反対運動、支持派との衝突、野党のデモ、国勢選挙のやり直しなどなど)からすると、確かに驚いたけれど、「来たか」という思いもあることも確かで、そういう意味では動転しすぎることはなかった。
 午後11時のニュース。国務省や警察も沈静化へ行動との発表。ただし、相変わらず大時代がかった威勢の良い歌を流している局もあれば、普通に歌謡曲も聞こえてくる局も。
 外では大雨が降り出した。雨季の終わりに近づいている。局所的なことも多いので、果たして同じ雨が兵隊たちの上にも降っているのかは分からない。
 さて、特にすることもなくなった。
 出しっぱなしでぬるくなってしまったビールでも飲むか。そうか、コンビニで氷を買ってくればよかったのか。

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9/19 23:47
上記の友人談「タイのテレビは見るのやめた。通所の番組ストップ。タイの音楽か王様の映像ばかり。BBCとかCNN見てる」。友達が言ってたけど「『スラウォン通りにも兵士がいっぱい』『マーブンクローンセンターやBTSの駅にも』」

9/20 00:05
会社の日本人上司から電話。「明日、会社休業の方向」

9/20 00:08
雨なんですが、小降り。ちょっと外出。地下鉄ペッチャブリー駅周辺、まったく何事もなく。交通の流れもスムーズ。帰ってみたら、ラジオも全局音楽のみ。どこかは不明ですが、管理下あるいは統制下にあるものと推察します。

*注釈
なお、CNNやアサヒコムを見ていると「coup」や「クーデター」という単語を使用しています。タイ語では「パティワット」という語が用いられていますが、この第一義が、手持ちの辞書で「revolution」となっているので、この場では「革命」を使用しています。定かではないですが、歴史的にも軍が出張ってこういう状況になると「革命」を使用していたように思います。上記友人に英訳語を尋ねてみたところ「riotでもいいかも」と指摘されました。

と上記していましたが、やはり意味合い的に「革命」ではなく「クーデター」の方がふさわしいと判断して、統一しました。現段階でより正しくは、「革命への試みとしてのクーデター」という辺りかとも思います。

9/20 00:56
タイの日本語ニュースメディア「newsclip」からメール。 タイで19日夜、ソンティ陸軍司令官を首班とするクーデターが起き、バンコク都内の総理府、テレビ局などを陸軍部隊が制圧した。軍はタクシン政権の汚職を糾弾、暫定統治の後、できるだけ早く民政移管すると約束した。クーデターはプミポン国王側近のプレム枢密院議長(元首相、元陸軍司令官)の承認を得ているもよう。 こうなると、「革命」でも良いかという感じかと。

9/20 01:05
先の友人。「半時間くらい前からUBC止まって、CNNやBBCも見られない」。UBCはタイのケーブルテレビで、この手の外国の放送を視聴する一番一般的な手段です。
「インターネットは?」と聞かれて、ふと、さっきからCNNのリロードが終了しないまま、ずっと読み込み中。ただ、BBCやABCは見られます。
友人が付け加えて曰く、「そうそう、外出禁止令が発令されたから」

9/20 01:15
CNNのサイト、閲覧できました。単なる先方のサーバの混雑かと。

9/20 03:15
「政治改革評議会」(暫定政府?)により、明日は休日となるとのニュースを見た。ふと、万一に備えてと思い、水道水を空いたペットボトルに詰めておき、12リットル確保。関係ないやろと思いつつ、備えあれば……。

9/20 03:22
ラジオが音楽のみから復帰。各局それぞれに番組を流していますが、ニュースは無し。流れてるものも、歌謡曲か、王様がらみのPRのようなもの。

9/20 8:00
外出禁止令のおかげで静かな朝ですが、少し隔てたアソーク通りではたまに車の流れる音が聞こえます。

09/20 8:24
ラジオで宣言。「現時点から、報道は通常に復帰」。と言いつつ、聞こえてくるのは音楽。

9/21 8:38
ラジオから、「本日の9時から、王様をトップにいだいた『政治改革評議会』のソンティ司令官の発表があるので、聞かれたし」

9/21 9:10
ドンムアン空港発着便のリアルタイム情報をウェブで見たところ、国内線に一部欠航が出ているものの、それ以外は通常運航の模様。

9/21 9:13
9時を過ぎてもずっと王を讃えるような歌ばかりだったのが、ここにいたってラジオが無音になった。静かなラジオって、なんだか「静寂」がスピーカーから流れ出してきて部屋を不安で満たすような奇妙な圧迫感があります。

9/21 9:52
友人から「テレビでは発表あった。短いもので、行動の説明と評議会のメンバー発表程度。テレビは通常の番組放送に戻った」。ラジオは相変わらず無音。

9/21 11:40
ちょっと近所を。アソーク通りは平常。バスも走っているし、普段より少し少ないけれど屋台も出ている。カノム・クロックを買って帰って来ました。

9/21 12:09
目新しいこともなさそうなので(次々と評議会からの発令が出されているとか、与党関係者が国外逃亡とか、タクシン首相はイギリスに向かう観測、など、既に一次的な段階は過ぎた感じ)、一度このページの更新を止めます。

・ご参考までに、日本ではあまりメジャーでない(かもしれない)メディアのリンクを。興味ある方はどうぞ。

「Manager Online」(「プーチャットカーン」というタイ語新聞のオンライン速報)
http://www.manager.co.th/

「タイの地元新聞を読む」(個人?のブログだが、非常に充実している)
http://thaina.seesaa.net/

「NNA: Global Communities」(アジア・欧州ベースの通信社)
http://nna.asia.ne.jp

「newsclip.be」(在タイ日本語ニュース)
http://www.newsclip.be/

「バンコク週報」(在タイ日本語ニュース)(日本時間午後12時12分時点で「Service Unavailable」)
http://www.bangkokshuho.com/

9/21付記
実際には、外出禁止令は発令されていませんでした。


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