寝ていられない
夕暮れ時のアソーク交差点。車の助手席で信号待ち。違和感のある派手さで何かが視界の上の方を動いた。えらく派手なUFOがマンションか何かを建築中の工事現場に飛来したのかと、思わず我が目を疑った。よく見るとそれは、先端にクリスマスツリーが据え付けられたクレーンが稼働している風景だった。黄昏の空に、ピカピカ光っていた。
リニューアルが進行中のセントラル・ワールド・プラザ前や、各ホテルやデパートの入り口など、街のあちらこちらにも、電飾されたツリーが立っている。スターバックスでは、もうずいぶん前から赤と白の紙コップだし、地下鉄の駅構内でも「Joy to the World」なんかが流れている。先日は、スーパーのレジの店員がみんなサンタ帽子をかぶっていた。
タイはキリスト教国ではないよな、と思いつつ、あちこちにあふれる「メリークリスマス」。お隣の、これまたキリスト教国ではないマレーシアでは、慮ってむしろ「季節のご挨拶（Season's Greetings）」が多いと聞くが、少なくともバンコクはメリークリスマス。
クリスマスが近づくと早起きになるのは、何も枕元のプレゼントを期待して、というわけではない。
これから年明けしばらくまでの時期が、一年で一番寒い。特に、朝方の冷え込みがきつい。
目が覚めたけどまだ眠い。でも、「一秒でも長く布団にくるまれて、ぬくぬくしていたい」という発想は、ここでは持てない。別に健康的だとか、そういう理由ではない。「あと５分」と思うことは思うのだが、実際問題としてそのまま寝続けていられない。
起きて活動を始めないことには、寒すぎるのだ。一年の内の350日くらいは、ベッドにタオルケットを敷いた上に身を横たえて休んでいるのだが、この時期だけはもぞもぞとかぶって寝ている。くるまれる、という感触を久しぶりに思い出す。でも、それでも寒い。毛布も掛け布団も持ち合わせがなく、当たり前だが部屋のエアコンは冷房機能しか備えていない。薄いタオルケットに包まれた自分の体温だけでは、周囲の気温の低下を賄えない。
寒さに急き立てられるように、結果的にえいやっと起き出して、シャワーを浴びる。ここでも、物足りなさを感じる。給湯器の温度設定は一年中「高」にしているのに、この時期だけはそれでも「ぬるい」と感じる。気化熱を奪われない内に、ぶるっと震えながら急いでバスタオルで全身の水気を拭き取り、髪の毛はすぐにドライヤーで乾かす。
そして、クローゼットを開けてシャツを選ぶときには、長袖と半袖とで躊躇する。
庭の猫も、普段は本当にだらしなく全身を投げ出して地面に転がっているのに、最近は猫らしく丸まっている。
ああ、寒い、寒い。冬だよな。忘れていたけれど、寒いってこういう感触だったんだ。
天気予報によると、本日のバンコクとその周辺部の最低気温は19度。年間平均が29度の土地で、20度を切っていると、軽く衝撃。まあ、それでも最高気温は30度あるのだけど。
メリークリスマス・ハッピーニューイヤー。
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