10年前の近未来

 妻が泊まりがけでホアヒン出張に出かけたから、週末の深夜にいそいそと、普段は見られないDVDを見ることにする。
 別に彼女がいるときに見ていても、妻は特に気にかけないとは思うのだが、こういう趣味的なものは一人の方がふさわしい。
 42インチのアクオスに向かい、ソファに深く腰掛ける。テーブルには、冷蔵庫から取り出したばかりのハイネケン。

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 学生の頃、「工学部生の志望理由にはガンダムを作りたいから、というのが多い」というのは、真偽の定かでないけれど、さもありなんという大学生活にまつわるエピソードの一つであった。
 ただ、ガンダム世代というのは、僕よりは少し年上の層だと思う。リアルタイムでどっぷりとつかるには、少し間に合っていない。
 僕とガンダムとの間にある距離は、意図的に間隔を取っている結果でもある。おもしろいだろうことは確実に知っているいるのだけれど、多岐に渡るシリーズの系譜を追いかけることを想像するだけで、その道のりの困難さに打ちのめされる。
 本であればいくら昔のものでも追いつくことは易しいのだけど、影像というメディアは手間がかかる分、なかなか手を出しにくい。30分のものは30分かけて見るしかないし、本のような携帯性も低いからだ。
 逆に、幸運にも、登場からその後の発展展開まで、ちょうど自身と時間の経過を共有している作品もある。そういものとは、それなりに深く付き合っている。代表的なものが、「機動警察パトレイバー」
 最初は中学生の前半。クラスメートが、夏休みの一日だっただろうか、「おもしろいビデオがある」と見せてくれたのが初期のOAVだった。彼の推薦は正しかった。劇場版1作目の封切りの日には、その友人と共に始発の電車に乗って、梅田の映画館に並んだほどだ。
 以降、コミックスはもとより、テレビ放映シリーズも含め、映像化された作品もほとんど手元に集めたように思う。中でも、劇場版1作目は、10回以上見たように記憶している。ただ、今回DVDで見た「WXIII機動警察パトレイバー」を除いては、全てレーザーディスクである。時代である。
 早い段階から企画に参加していた押井守は、当時既にアニメーションの世界では有名だった。だが、日本社会一般的には、カンヌなどを通じた「世界の押井」がくるっとまわって来て、この数年で名を知られてきたように思う。マスメディアに掲載された写真の彼を見ると、顔の皺や白い髪の毛に、ああ20年という年月が経ったのだとつくづくと思う。
 初期OAVが出た1988年当時、作品中で設定されている1998年というのは近未来だった。いつの間にか追いついて、通り越して、今はあの時代のさらに10年先にいる。
 パトレイバーの年代を挟んで、ちょうど前に10年、後ろに10年。だけど、WXIIIで久しぶりにその世界観を堪能して、何も色褪せていないどころか、またこれからも何度でも見たくなる内容だったことが嬉しかった。

OAV(オリジナル・アニメーション・ビデオ):テレビ放送や映画からは独立して、ビデオとして制作されたアニメーション作品。「OVA」の方が一般的かもしれない。だけど、当時僕らは「OAV」と呼ぶことの方が多かった。


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