ランニング
運動すると気持ちがよいという人がいる。
いやいや。
息は上がるし、汗はべっとりまとわりついて特に首筋は痒くなるし、いったい何がよいのか。想像すら及ばない。エアコンの効いた部屋でビール片手にごろっとしている方が、快適ではなかろうか?
40歳を少し過ぎた2年ほど前の春、健康診断で各種の数値が引っかかり、解決を迫られた。さすがにこれはマズかろうと自覚して、朝起きて走ることにしたのだ。
幸い、3ヶ月後の再検査では、いずれの項目も劇的と言ってよいほどに改善され通常値へ。
確かに、そこで終わってもよかったのだ。
少し欲が出てしまった。血液検査の結果があれほど変化するのだから、もう少し続ければ、腹回りも何とかなるのではなかろうか、と。
幸い、3ヶ月の間に走ること自体が習慣化していたこともあり、真夏になってもランニングは続いた。
そうする内に、特に意識したわけではないが、結果的にスピードも距離も少しずつ伸びてくる。
これならいけるんちゃうかと、またまたちょっと欲が出て、ハーフマラソンに出てみたら、すんなりと2時間を切った。ゴールしても、身体のどこにも痛みもなく、さしたる疲労も感じず、実はいくらでもすいすいと行けるのではないかと思ってしまった。
秋から冬へ。早朝は暗くても、外に出るのがおっくうな寒さでも、たったか走る、走る。
そして春先に、フルマラソンに初挑戦。これはひどかった。完走こそしたものの、後半は歩きも交えて、かかった時間は全部で5時間弱。フルというのは、単にハーフの二倍ではない世界観なのだと、身をもって知った。
それでも、42.195kmという距離感を自分の中に取り込めたのは収穫だった。であれば、もう少し、改善できるのではなかろうかと、自分に甘い期待が持てた。
実現に向け、早朝のランニングは途切れることはなかった。7、8、9月は特に調子が乗ってきて、月間走行距離200km以上。我ながら驚く他ない。続ければ続けるほど、ちょっとずつ欲のレベルが上がってくる。
次第に、フルマラソンでの4時間切りまで目標に見えてくる。サブ4というのは、マラソン初心者の一つの壁である。
秋、走り始めてから1年半。快調に走り抜けたつもりではあったが、淀川市民マラソンの結果は4時間7分。ゴールした際には、喜びよりも、あと少しという悔しさの方が勝っていた。
さらにその3週間後、河口湖と西湖をぐるっと走る富士山マラソンへ。1kmの間に100mも上がる、「坂ではなく、もはや山越えじゃなかろうか」というあそこさえなければ、4時間を切れていたような気がするのが余計に悔しいが、記録は4時間3分。日常生活では3分なんて誤差だけど、ここではまだ大きな壁であった。
早春というには少し早い2月のある日、今度は岡山で、そうじゃ吉備路マラソン。
前半は抑えながら、徐々にペースを上げていこうと10kmごとのペース目標を立てるも、30km過ぎからは思うほどにはギアが上がらず、それまでと同じスピードを維持するので精一杯。
それでも、結果、3時間53分。ついにサブ4である。ゴールした瞬間、思わず両手を天に向かって突き上げた。
運動経験ゼロの中年が、家の周りを2、30分走ることから始めて、2年弱のことであった。
そう言えば、当初目論んでいた腹回りの方も、ずいぶんとすっきりとしてきた。と、言うことができたらめでたしめでたしなのだが、どうしたものか、そちらはなかなか。改善がゼロというわけではないが、未だにメタボの側に近い。
記録は順調に伸びてはいるが、あくまで副次的な話。まだ当分は走り続ける所存。爽快感だとか、ランナーズハイだとかは、特にまだ感じたことはなく、やっぱり運動の何が気持ちがよいのかはよく分からないまま。
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