どんぐりを食べてもいいですか?

 日本語がまだ上手ではない配偶者の病院案件というのは、どうしても気にかかる。
 こちらが付き添いのできないとき、本人の病気であってももそうだけど、小さな子どもを外国人の妻が連れて行って受診するときは、余計にはらはらしてしまう。
 ある日、幼稚園から妻に連絡があって、3歳の娘が早退した。全身の皮膚が赤くなって、かゆがっているとのこと。妻がそのままかかりつけの小児科に連れて行って、薬をもらうと同時に、血液検査もしてきた。
 結果は、ナッツ類にアレルギーがあるというものだった。前日あたりにアーモンドの入ったクッキーを食べさせた気がする。それだろう。
 幸い症状は数日でおさまったけれど、幼稚園で週に三回出てくる給食での対応が必要だ。関連の書類に記入して、今後は親が毎月の献立表を事前にチェックすることになった。
 その手続きをしてきた日の夜、妻が「今日、幼稚園の後で病院にも寄ったのだけど、困ったことになった。話が全然通じなかった」と言ってきた。
v  うちの娘の幼稚園はけっこうワイルドで、野生児の育成に情熱をかけている。園で採れる果物や野菜を食べたり、山羊、モルモット、ニワトリあたりの動物は園に常駐。自然の多い場所へ積極的に連れ出しての活動も多い。
 アレルギーを申告した際に、園の方から「秋になったら、どんぐりを取ってきて食べるのですが、これはどうしましょうか?」との質問があったとのこと。
 「なるほど、そういうアクティビティーもあるのだな」と素直に納得した妻は、同じ質問をそのまま小児科の先生に持ち込んだ。
 「先生、先日はありがとうございました。ところで、ナッツアレルギーの娘なのですが、どんぐりは食べてもよいものでしょうか?」
 「は?」となって質問の意味を理解するのに一呼吸置いた医師が、思わず「日本ではどんぐりは食べませんよ!?」と回答。
 「いやいや、タイでも食べないですけどね」と思いつつ、妻は「幼稚園で訊かれたもので」と説明をする。
 どうやら、うちの幼稚園の特殊事情なのですが、というところから説明しなければいけなかったようだ。
 幼い娘の健康の件で、日本語でうまく話が通じない妻の苦労には申し訳ない。ただ、どんぐりを食べてよいかと質問されて、唖然としているお医者さんの姿を想像すると、無性に可笑しい。
 あまりに食物というイメージはなく、パッと思いつく限り、どんぐりを口にするのはリスと縄文人くらいのものだろう。
 娘よ、強く育て。

 と言いつつ、この広い世界には、どんぐりを食べる人たちもいるかもしれない。思い出したが、韓国には、どんぐりを使ったプルプルの料理があったような気がする。あと、動物だったらイベリコ豚はどんぐりだな。


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