雷魚塩焼き

 魚介類と言えば、何も海のものとは限らない。淡水に暮らす「雷魚」も立派な食材の一つ。
 日本でも戦後の一時期には食用にされていたが、現在では鑑賞やゲームフィッシングの対象として知られるくらいだろう。だが、東南アジア一帯、それに韓国や中国でも、決して珍しい食べ物ではない。
 円筒形をした黒っぽい風貌はナマズにも近いが、皮には斑が入っている。鋭く尖った細かな歯が並ぶ大きな口から、昆虫だろうがカエルだろうが捕食する雑食性だ。英語ではスネークヘッドと呼ぶように、その扁平な顔立ちは蛇にも似る。
 プラーチョン・パオ・クルアという、丸ごとの塩焼きがシンプルで美味しい。体長4、50cmほどの新鮮な雷魚に、臭み消しのレモングラスを口から束で突っ込んで、全体を塩で包んで炭火で焼く。
 余分な水分が抜け、パリッとした皮の下から表れるのは、艶やかに上品な白身。そこにネギとコリアンダーをぱらりと振りかける。唐辛子、ニンニク、ナンプラーなどの入ったタレにつけていただく。
 実は、雷魚はエラとは別に特殊な器官を持ち、空気呼吸もできる。そのため、火にかけられてもまだまだ元気なのもいる。あまり美的とは言い難い姿が、網の上でじたばた跳ねる光景に、少しばかり食欲も怯むかもしれない。
 だが、脂がのってしっとりほこほことした身を噛み締めている内に、あらためて実感する。全く、味は見かけによらぬものだ。

神戸新聞/2005年4月22日掲載


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