鉄鍋豚

 無性に肉が食べたくなって、うずうずすることがある。ムーカタ(鉄鍋豚)の店へ出かけよう。この料理、実は韓国の焼き肉に起源を持ち、別名ムーヤーンガウリー(韓国式豚焼き肉)。
 席に着くとまず、炭火が真っ赤に燃えるコンロに乗った鉄鍋が運ばれてくる。ジンギスカン鍋にも似て、ぽっこりした半球の周りにはぐるりと溝が巡らされている。
 ビュッフェ形式なので、食材コーナーから好きなものを好きなだけ取ってくればよい。
 内臓も含めた豚の各部位を始め、ベーコンにソーセージ、鶏、魚、イカ、つみれなどなど。脂をひいた鍋の上で、じゅうじゅう焼いて、どんどん食べよう。
 つけダレもさまざま。見るからに辛そうな赤いタレは、豆腐を紅麹で発酵させた調味料の色なので、実際はこってり甘め。刺激的なのは緑色の方。青唐辛子がたっぷり刻み込まれている。さらにお好みでニンニク、唐辛子、ライムをトッピング。
 だが、これだけではない。鍋の溝の部分にはスープを注ぎ、空芯菜、白菜、青梗菜、スイートバジルなどの野菜、それに春雨やラーメンをぐつぐつ煮込む。
 そう、ムーカタの真骨頂は「焼き肉+鍋物」の一石二鳥の楽しさにある。
 さらに、どの店も副菜類も幅広い。タイカレー、ソムタム(青パパイアの和え物)、焼き飯、サラダ。ココナツアイスクリームに果物まで。
 これだけそろって、しかも食べ放題で、価格は一人100バーツ(約270円)を切る手ごろさ。
 煙と湯気と熱気の中、ムーカタの店は、仲間や家族連れで、いつも遅くまで賑わっている。

神戸新聞/2005年5月13日掲載


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