ルークチュップ
おとぎの国の食べ物かもしれない、と思う。
目の前には、マンゴー、ローズアップル、マンゴスチン、グァバ、アメダマノキの実、イチゴ、ミカン、サクランボ。それに、ニンジン、ナス、カボチャ、トウモロコシ、トマト、タイらしく唐辛子も。
ただし、どれも実物よりはずっと小さく、わずか指の先ほど。ころころと、艶やかな光沢を放って並んでいる。
あまりの愛らしさにどれにしようか迷った末、そっと指でつまんで口に運ぶ。透明な薄皮が弾けるぷっつりした歯ごたえの先に、ほのかに花の香りが漂うほっこり甘い餡。
ルーク・チュップという、タイの伝統的なお菓子。
小学校で実習するほど、作り方はむしろ平易。
皮を剥いた緑豆(春雨の原料になる。また、これの新芽がモヤシである)を水に浸し、ココナツミルク、砂糖を加えて火にかけ、よく練り固める。できあがった淡い黄色の餡を、野菜や果物の形に整える。
今でこそ着色料が多いが、そもそもは黄色にはカボチャ、オレンジ色には熟したパパイヤ、赤やピンクにはビート、緑色はニオイタコノキの葉と、天然の物を利用して、筆で彩色する。
ジャスミンの花を浮かべた水にゼラチンを溶かして温める。先ほどの餡をつまようじで刺し、全体を浸す。ひっくり返して、バナナの茎の輪切りに刺し、固まるのを待つ。薄皮を作るこの作業を二度ほど繰り返す。
仕上げに、ヘタの部分に月橘の葉を飾って、より本物らしく。
とりどりの色と形を眺めているだけで、幸せな気分になる。たぶん、ここには夢がある。
神戸新聞/2005年5月27日掲載
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