カニのカレー粉炒め

 「カレー」の語源は、タミル語やヒンドゥー語に依るだとか、釈迦が与えたスパイスミックスに由来するなどなど、諸説がある。
 タイ語には、原音に近い「カリー」として存在し、料理にもよく登場する。その一つ、豪勢に丸ごとのカニ(ノコギリガザミ)を使った、プー・パッ・ポンカリー(カニのカレー粉炒め)は、日本人にも熱烈なファンが多い。
 鍋にニンニクを炒め、香りを出したところへ大きめに切り分けたカニを投入。強火で炒めてから、ひたひたになるくらいの水を加え、蓋をして煮込む。
 水の量が半分くらいになったら、カレー粉、ナンプラー、白醤油(日本のそれとは異なる。薄口醤油に近い)、オイスターソース、砂糖、胡椒、玉ネギ、ネギを加える。
 牛乳を合わせた溶き卵を流し込み、さっと火を通す。斜めに切ったタカノツメを加えてできあがり。
 黄色いふわふわの卵の向こうから、赤く色づいたカニの姿が見え隠れ。立ちのぼるカレーの香りが、いやが応でも胃袋を刺激する。
 熱々をご飯にかけ、勢いよく取りかかる。手も口もベタベタにして、一心不乱に身をちゅうちゅうすする。テーブルは、やはり幸福な沈黙に包まれる。
 「殻をほじるのが面倒!」とおっしゃる向きは、「身だけ」と注文することもできるし、プーニム(柔らかなカニ)を頼むのもおもしろい。脱皮直後で甲羅がふにゃふにゃなので、丸ごと食べられる。
 さらに「プーカイ」(子持ちカニ)はどうだろう。ハサミにむっちり詰まった身ですら興味が薄れるほど、濃厚なカニの卵の味は魅惑的だ。

神戸新聞/2005年6月10日掲載


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