豚足ご飯

 店の前の大鍋で、醤油の香りを漂わせ、とろ火で煮込まれている豚の足。
 深い味わいを醸し出すのは、ニンニク、コリアンダーの根、南姜、氷砂糖、椰子砂糖、白醤油、黒醤油。そして、軽く炒った、八角、黒胡椒、コリアンダーの種、肉桂、陳皮などの数々の香辛料。
 よく洗い、毛を取り除いた豚足を、たっぷりの水と上記の調味料で、2時間ばかり。
 椎茸、紹興酒、さらに、肉を柔らかくさせるカラシナの漬物を加え、また2時間。
 適宜、水や調味料を補いながら、まだまだぐつぐつ。次第に、全体がとろみを帯びてくる。
 じっくり煮込んだその豚足をご飯に乗せ、さっと煮汁をかけた、カーオ・カー・ムー。
 むちっとした皮、ふるふるしたゼラチン、繊維の一本一本が舌の上でほどけるほどに柔らかな肉。ぱらりとしたタイ米と共に噛み締める。付け合せには、やはり鍋から取り出したカラシナ漬。漬物のほのかな酸味が食欲をさらに刺激する。
 トッピングのゆで卵にも、茶色い煮汁がしっかりしみ込んでいる。腸を一緒に煮込むこともあり、こりこりとした歯触りが良い。
 こっくりした味なので、唐辛子・ニンニク・酢・塩・砂糖を混ぜて寝かせたタレをかけて食べる。それでもまだ口の中が重たい感じならば、生のニンニクや唐辛子をかじってさっぱりと。
 タイ語で「豚を煮る」と言えば、土地に不案内な人などから、金品を巻き上げるという意味。日本語の「カモにする」に近い。
 タイ旅行で食べる豚足ご飯のあまりのおいしさに、我を忘れて、煮豚にならないよう、ご注意を。

神戸新聞/2005年6月17日掲載


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