カピの混ぜご飯

 「魚醤」は、一見すると見慣れない言葉で、ナンプラーなどの連想から、いかにもエスニックな感じを受けるかもしれない。
 だが、秋田のしょっつる、石川のいしる、香川のいかなご醤油などは、伝統的な日本の魚醤である。
 意外なところでは、古代ローマにもガルムという魚醤があり、現在でもイタリアの一部には残っている。
 現代の日常的な加工食品にも利用されており、麺類や鍋物などの市販のたれ、あるいは漬物やインスタントラーメンなどの原材料によく表記されている。
 タイでは「カピ」という塩辛のような魚醤の一種をよく使う。アキアミなどの小さなエビを塩漬けにして発酵させ、天日に干し、細かくすりつぶした調味料。
 味付けの裏方に徹することが多いのだが、カーオ・クルック・カピという混ぜご飯では、その名称にも登場するように、むしろ主役級。
 少量の水で伸ばしたカピとニンニクを炒めて香りを出したところへ、ご飯を加える。砂糖とナンプラーで調味。お椀に盛ったご飯を平皿の中心にひっくり返し、お子様ランチのように盛りつける。
 この周りに具を飾っていく。ナンプラー、黒醤油、椰子砂糖などで調味した豚のそぼろ。削ぎ切りにした中華の腸詰め。揚げた干しエビ、薄切りの紫タマネギ、小口に切った生唐辛子、揚げ唐辛子、インゲン、未熟のマンゴーの千切りなど。
 仕上げに、たっぷりの錦糸玉子をふわりと。
 ちらし寿司のように、見た目も明るくにぎやかな皿である。ライムをぎゅっと搾り、全体をよくかき混ぜていただく。

神戸新聞/2005年9月2日掲載


戻る 目次 進む

トップページ