カニのナンプラー漬け

 甘味・酸味・塩味・苦味と並ぶ基本味の一つに「うま味」がある。1908年、東京帝国大学の池田菊苗教授が、だし昆布から発見し、現在では国際的にもumamiで通用する。
 東・東南アジアでは、うま味を豊富に含む発酵食品が古くから常用されている。
 日本を含む東アジアでは、味噌や醤油などの「穀醤」が主だが、東南アジアは「魚醤」の文化圏だ。
 ベトナムのニョクマム、ラオスのナンパー、カンボジアはトゥク・トレイ。ミャンマーのンガピャーエー、マレーシアのブードゥー、インドネシアのケチャップ・イカンなど。
 タイのご飯にも「ナンプラー」が欠かせない。塩漬けのカタクチイワシを熟成させた、透明な茶色の液体で、アミノ酸をはじめとしたうま味の宝庫。独特の臭気がまた病みつきになる。
 大量のうま味成分を持つナンプラーと、これまた海のうま味が凝縮したカニを合わせた、プー・ドーン(カニ漬け)は、海鮮好きにはこたえられない。
 生のノコギリガザミを1時間ばかり冷凍庫に放り込んでおく。一口大に切って、ナンプラー、唐辛子、ニンニク、ライムを混ぜたタレに漬け、その上からコリアンダー、唐辛子、ニンニクをわんさと振りかけて食べる。
 身をちゅるちゅるすするのもよいのだが、珍味は甲羅の内側に秘められたミソと卵巣。特に、深いオレンジ色をした卵巣は、ねっとり深みのある味で、舌に乗せるだけで全身が震える。
 ただ、カニは足が早く、鮮度がわずかに落ちただけでも生臭くなってしまう。信用できる店で食べたい。

神戸新聞/2005年9月9日掲載


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