月餅

 旧暦の8月15日は中秋節(今年は9月18日だった)。
 中国発祥の月見の習慣は、香港や台湾のみならず、中華系の人が多く住むバンコクでも賑わいを見せる。
 月を愛でながら食べるのは、「月を拝む菓子」という意味のカノム・ワーイ・プラチャン。タイの伝統菓子ではなく、中国由来の月餅をそう呼ぶ。
 一ヶ月ほど前から、中華料理屋は言うに及ばず、スーパーやデパートでも特設コーナーを設けて大々的に販売される。中国や台湾では贈答品とされることも多いが、タイでは家族そろって食べるお菓子という意味合いが濃い。
 艶やかな皮の部分には、店の名や花の図柄などが型押しされている。中身には、月に見立てた塩漬けアヒル卵の黄身を抱いた餡がむっちり。
 蓮の実、小豆、黒ゴマ、あるいはスイカの種や杏仁やクルミなどの5種類の木の実を混ぜて餡にするのが一般的。
 だが、最近は多種多様。和風に緑茶味、洋風にカスタードクリーム。
 スターバックスでは、エスプレッソ味のコーヒー月餅が。さらにハーゲンダッツでは、アイスクリームをチョコレートでコーティングしたアイス月餅。これは、卵の代わりに、黄色いマンゴーシャーベットを中心に配す凝りよう。
 異文化の受容そして独自な発展、というのはタイ文化の特徴。しかし、友人に「色々あるけど、何味が人気なの?」と訊いて返ってきた答えには、それでも驚いた。
 「5種類の木の実の餡か…それに、やっぱり外せないのはドリアン」
 ねえ、それって、もしかして、ドリ餡!?

神戸新聞/2005年9月30日掲載


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