キャベツ煮込み

 タイは今、「ジェー食祭り」の真っ最中。ジェーは漢字で「齋」と書く。
 これにかなう食品を扱うスーパーや市場、あるいは料理屋などに、黄色地に赤で大きく「齋」と書かれた旗が立っている。赤は生命の吉祥、黄色は受戒した人を表す。
 「齋」とはそもそも、大乗仏教における在家信徒の八戒を守ること、特に「正午から翌朝まで食事をしない」こと。
 その戒めの中に、肉食を禁じる項があることから、現在では普通に3食を摂りながらも、菜食に徹することがもっとも大きな意味として捉えられている。
 しかし、例え野菜であっても、ニンニク、タマネギ、ニラなどの辛い物、臭い物は、怒りや淫欲の元となるため不可。
 代表する料理の一つとして、パック・ガラムプリー・トムという、キャベツの煮込みがある。
 丸ごとのキャベツを、植物性の油で軽く炒めてから、湯葉、豆腐、干ししいたけと共に煮込む。必須のナンプラーは、魚が原料だから使わない。代わりに、白醤油に、こってり甘めな黒醤油を少し混ぜる。
 度を超して辛い、甘い、酸っぱいなどの、刺激的な味付けも禁じられるため、野菜の素直な味が美味しい。
 他にも、精進料理と同じく、大豆を利用して肉に似せる工夫がされるなど、ちょっと目先の変わった料理も食べられる。
 この「齋」だが、決まり事は菜食だけに限らない。身も心も清浄でいるために、飲酒、喫煙、性行為もならない。また、白い服をまとって純潔を示す。
 期間は、中国旧暦9月の最初の9日間。由来には「7人の皇帝と2人の菩薩にお供えを献じ礼拝した」「太陽、月、水星、金星などの9つの星を祀る儀式で、功徳を積むために心身の静謐を求めた」「満州族との戦いの際、人々が心を清めた」ことなどが伝承として残る。
 伝統と厳粛な決まり事に基づいたジェー食祭り。厳格な人は、一日前から「腹を洗う」として菜食に入る。肉食者と同じ食器を使わず、同じテーブルにも着かない。
 だが一方で、決まりの全てを守るわけでもなく、肝腎の菜食も「まあ、夕食だけは」とか、「日曜だけね」など、むしろ楽しみながら臨機応変に参加する人も少なくない。
 バンコクの中華街をはじめ、人口の7割が中国系のプーケット島でも大きなパレードがあり、盛り上がりを見せる。そもそも、儀式と言うよりも、その名の通り「お祭り」なのである。

神戸新聞/2005年10月7日掲載


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