イスラム風カレー
街並みのどこからか、イスラム教徒へ礼拝を呼びかけるアザーンが響いてくる。
「アッラー・アクバル(アッラーは偉大なり)」で始まる、愁いを含んだ独特の節回しを耳にするたび、住み慣れたはずのバンコクにあって、ふいに、見知らぬ国に入り込んだような感慨に包まれる。
タイにおけるムスリムの割合は、人口のわずか5%弱だが、バンコクにも彼らのコミュニティやーモスクが何カ所かある。
マレーシアに接する南部地方、特に深南部と呼ばれる、ナラーティワート、パッターニー、ヤラーの3県は、1902年にシャム王国に併合されるまで、イスラムのパタニ王国領であったため、今でも信者が多い。最近、分離独立を唱える組織によるテロが報道されているので、ご存じの方も多いかもしれない。
今、ヒジュラ暦では9番目の月「ラマダーン」に当たり、日の出前の礼拝から日没までは、一切の飲食をしないことが定められている。この断食は、ムスリムにとって生活の基礎となる行いの「五柱」の一つであり、メッカ巡礼に次ぐ大きな行事でもある。
この機会にしばらくの間、タイでよく見かける「ムスリムご飯」を紹介してみたい。
当然ながら、そこに豚肉は使われない。乾燥させた香辛料を多用するので、バジルやレモングラスなどの生のハーブを利用するタイ料理からすると、独特の感じがある。
だが、そんな個性を保ちながらも、宗教に依らず、広く口にされている料理も少なくない。
食堂や屋台でよく見かける手軽な「ぶっかけご飯」。バットに並んだ各種のおかずを選んでご飯にかける。
ココナツミルクで煮込んだごろりと大きな鶏肉とジャガイモ、マッサマン・ガイは、その中でも準定番くらいの位置にある。
油とココナツミルクを火にかけ、カルダモン、クローブ、シナモンを入れて香りを出す。紫タマネギ、インドトウガラシ粉、コリアンダーの種、クミンシード、コショウ、さらに、ニンニク、ショウガ、炒めたココナツの果肉、ターメリックを加える。
ジャガイモを入れ、火が通ったところへ、鶏の胸肉。塩と椰子砂糖、再びココナツミルクで調味し、弱火で煮込む。仕上げに、炒ったピーナツとタマリンド酢。
見た目は真っ赤でも、辛いタイのトウガラシを使わないため、むしろ、ココナツミルクのとろりとした甘みとまろやかさ、そして複雑な香辛料の味と香りが特徴的だ。
神戸新聞/2005年10月14日掲載
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