昔々、ある村にカティという男がいました。竹を割ったような性格で仕事熱心。庄屋の一人娘、ペーンと思いを寄せ合っていました。
灯ろう流しの夜。二人は水牛の背に揺られながら、月の下で誓ったのです。
「どんな障害も、真実の愛で乗り越えよう」
一生懸命お金をためたカティは、結婚の承諾を得ようと庄屋の元を訪ねました。
ところが、彼のことを快く思っていなかった庄屋は、屈強な男を集めておき、散々に痛めつけたのです。
何日も起き上がれないほどのひどい傷を負ったカティ。それでも「これしきでくじけまい」と改めて決意しました。
その後、庄屋がペーンと町の若者との結婚を企てました。
カティは、式を挙げさせまいと飛び出したのですが、庄屋は一枚上手。あらかじめ、落とし穴を掘って待ち受けていました。
父親の悪巧みを耳にしたペーン。すぐさま恋人に知らせるべく、家から抜け出し夜道を行きます。
途上、互いの姿を認めた二人は、喜びのあまり駆け出しました。
何ということでしょう、その時、ペーンが落とし穴に落ちてしまいました。驚いたカティは、彼女を助けようと飛び込みます。
しかし、例の男たちは、カティがわなにかかったと思い、穴を埋めてしまったのです。
翌朝、庄屋が目にしたのは、カティがペーンを抱きしめ、幸せの中で息絶えた二人の姿でした。
涙にくれた庄屋は、「誰あろうと、愛を妨げてはならないのだ」と思い、広く世に知らしめるため、その場に碑を建てました。
その碑がどこにあるか、はっきりと知る人はありません。ただ、その思いは大切に受け継がれています。
二人の愛を信じる人々は、ペーン(粉)とカティ(ココナツミルク)とで、良い香りのする甘いお菓子を作るのです。
焼き上がった二つを重ね合わせるのには、「二人がいつまでも一緒にいられるように」との願いがこもっている。
神戸新聞/2005年11月25日掲載