ビール
雨季の終わりに、世界の終末を告げるような勢いで降っていたスコールも、ぴたりと止んだ。
大雨からは解放され、次に訪れる猛烈に蒸し暑い暑季までは間がある。日中はそれでも30度を越えるものの、年末年始にかけてのほっと一息つくような寒季の気候に、心は浮き立つ。
そんな祝祭的な気分をさらに盛り上げるのが、ビアガーデン。この時期のバンコクは、ビアガーデンシーズン。
各所に店が開くが、中でも、都心部に建つ、セントラル・ワールドという巨大な複合商業施設の前の広場には、今年もメーカー各社が勢ぞろいし、連日、大盛況。
タイのビールの2大ブランドは「獅子」と「象」。
獅子ビールこと「ビア・シン」は、外国ではシンハ・ビールとしても知られる。麦芽100%で味わい深く、ほのかな甘味も感じられる。1933年にタイ初のビールとして登場して以来、長年、ビールと言えばシンであった。
その伝統を打ち破ったのが、91年新参の、象ビールこと「ビア・チャーン」。緑と金のラベルに向かい合った象の姿もかわいい。
マーケティング戦略が功を奏し、現在では最も売れている。98年には、オーストラリア国際ビールコンテストで金賞を受賞するなど、実力派でもある。
注文の際に、「氷は?」と尋ねられる。冷蔵設備が充実していなかった時代の名残で、今でも氷を入れて飲むことが多い。
屋外ではすぐにぬるくなってしまうので、冷たさを保つという利点もある。獅子は6%、象は6.4%と、度数が比較的高いので、薄まった具合がちょうど良いという声もある。
そして、店員はグラスが空になるのを待たず、どんどん注ぎ足してくる。ビール好きな人は顔をしかめるかもしれないけれど、その都度断るのも面倒だし、人情味に欠ける。これはこれで、サービス精神の表れだと思って受け入れる。
合わせるのは、やはりタイ料理。トウガラシの刺激にグラスもいっそう進む。
甘辛酸っぱい春雨のサラダ(ヤム・ウンセン)、香辛料の効いた豚の耳のハム(フー・ムー・ケーオ)、炭火でじっくりあぶった丸ごとの鶏(ガイ・ヤーン)、独特の発酵臭を持つタイ風ソーセージ(ネーム)などなど、何をつまんでも楽しい。
日暮れも待ち遠しく繰り出そう。氷をたっぷり入れたグラスを片手に、「チョン・ケーオ(乾杯)!」
神戸新聞/2005年12月9日掲載
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