鶏飯

 店先のガラスケースの中に、鶏が何羽もぶら下がっている。
 「茹で鶏のように青白い」というタイ語の比喩表現があるように、全体的に乳白色。よく見ると、トサカまで白い。尻の先からは、脂が滴って、下に置かれた金属製のバットにたまっている。そして、そこには何本もの首が転がっている……。
 ひるんではいけない。これこそが、東南アジア各国で絶大な人気を誇る、「鶏飯」の店の風景なのだから。首の数が多いのも、売れ行きが良い証拠。
 中国は海南島出身者が広めたとされ、地名を冠して「海南鶏飯」とも、「ハイナニーズ・チキン・ライス」とも呼ばれるが、タイ語では一般的に、カーオ・マン・ガイ(=ご飯・こってり・鶏)。
 鶏の滋味を余すことなく味わう至福の一皿。
 コリアンダーの根と塩を加えた水を張った鍋で、内臓を抜いた丸ごとの鶏を茹であげる。そのスープを使い、ニンニクと共に軽く炒めた米を炊く。
 ぷんとよい香りのするご飯の上に、つやつやと輝く鶏肉を乗せ、コリアンダーをぱらり。
 豆鼓、黒醤油、ショウガ、トウガラシなどを混ぜたタレを振りかけ、ご飯と肉を一緒にスプーンに乗せて頬張る。
 じゅわっと口いっぱいに広がる旨味。鼻を通り抜ける、タイ米と絶妙に合わさった鶏肉の香り。くにゅりと歯ごたえのある皮をかみしめると、上品な味の脂が舌の上に滴り出す。
 添えられたスープも、忘れず熱い内に。これまた、鶏のエキスが存分に溶け出し、胃袋に染み入る。半透明に煮込まれたウリが、口の中でほろほろと崩れる。
 付け合わせの定番はキュウリ。たっぷりの水気が口の中を洗ってくれる。
 注文の際に、好みの肉の部位を伝えることができる。肉だけを頼んでも、皮付きをリクエストしてもよい。砂肝やレバーなどの内臓、血を固めてぷるぷるになった物を添えることもできる。
 実はこの料理、日本でも専門店ができるなど、ちょっとした話題になっている。アジアの美味は根付くだろうか。

神戸新聞/2006年1月13日掲載


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