タイ東北地方風腸詰め肉

 屋台を営むにあたって、どういう立地を選んだらよいか、という話を聞いたことがある。
 市場の中や校門の前、オフィスビルの近所など、人の集まる場所がぱっと思いつく。
 だが、普通の住宅街に出店することを考えるのなら、コンビニの前というのが人気なのだそうだ。その集客力を利用しようという算段、言われてみればなるほど。
 何軒か固まっている中でも、鼻をくすぐる匂いを発している店には、ついふらふらと誘われてしまう。
 サイクローク・イーサーンという、タイ東北地方風の腸詰め肉を焼く煙が風にたなびいている。
 炭火のコンロの上には、二枚のトランプを三角に立てるような格好で、左右から網が乗っかっている。限られたスペースの有効活用。ぴちぴちと跳ねる脂が真っ赤な炭に落ち、じゅうっと音を立てる。
 順番を待っている間に、店員が小さなビニール袋を渡してくれる。傍らに置かれた野菜をご自由に、というわけだ。
 ざく切りのキャベツは、水を張ったプラスティックのたらいに盛られている。ずんぐりした水気たっぷりのキュウリに、薄切りのショウガ。コリアンダーや青ネギは、束から好きなだけ引っこ抜く。そして、わずか三センチばかりの濃い緑色をしたキダチトウガラシ。小粒ながらびりりと痛いほどに辛い。
 焼きあがりを急いで家に持ち帰り、熱々のところをかぶりつく。
 前歯でぷっつり弾けた皮の中から、甘い脂がじゅわっと口中に飛び散る。香ばしさの奥から、豚肉の甘味がじんわりと舌を覆う。
 同時に、ほのかな酸味と、鼻に抜ける特有の匂いに気付く。肉に刻み込まれたニンニクだろうか。いや、それだけではない。
 材料の一つ、炊いた米。腸に詰めてから常温で数日放置しておく間に、それが発酵してもたらす味と匂いである。臭みとも言えるが、これがまた病みつきになる。
 屋台の様子を見ていると、コンビニで買ってきたビールをその場で開け、さながら立ち飲み屋のごとく腸詰めをつまむ人もいる。なるほど、双方に利点があるらしい。

神戸新聞/2006年2月3日掲載


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