ホー・モック
バナナの原産地は東南アジア。タイだけでも30種以上があり、生活に密接した植物である。
食べやすく栄養豊富なため、離乳食の定番。食物繊維が豊富なので、便秘のときには熟したものを食べると良いとされる。
乾燥させて保存食にしたり、シロップで煮たり、ココナツを混ぜた衣をつけて揚げたお菓子もある。未熟のものは、汁物の具になる。
苦味のあるつぼみは、タイ風焼きそばの付け合わせに欠かせない。
昔の子どもたちは、葉の中心を走る太い葉脈をまたぎ、馬乗りに見立てて遊んだ。
旧暦12月の満月の夜、輪切りにした茎にろうそくを乗せた灯籠を川面に流すのは、スコータイ時代から続く伝統。
生活の知恵を一つ。熱したアイロンを、しばし葉の上に置いてから使うと、滑りがよくなる。
多くの実がなることから、結婚式にも欠かせない。この世を去る人には、棺の中に3枚の葉を敷く。
「包んで蒸し焼きにする」という意味のホー・モック。
ココナツミルクを混ぜた魚のすり身の蒸し物で、太陽をいっぱいに受けて育った、濃い緑色のバナナの葉を容器として用いる。
雷魚、鶏や豚、カニやエビ、さらにカブトガニの卵などという変わり種もあるが、一般的にはアロワナの仲間である、ナギナタナマズという淡水魚を材料にする。この魚、身は美味しいのだが、小骨が多いので、すり身で使うことが多い。
トウガラシの赤とココナツミルクの白で上部を飾る。
スプーンがすっと通るやわらかさで、茶わん蒸しに近い感じもあるが、その味と香りはまさしくタイ料理。
ただ、辛味はさほどではなく、各種のスパイス(乾燥トウガラシ、紫タマネギ、ナンキョウ、ニンニク、レモングラス、コリアンダーの根、コブミカンの皮、コショウなど)が混じり合った鮮烈な香りが、ココナツミルクにゆったり抱かれている。
川の恵みを、大地の恵みが包んだホー・モック。ぜひ、湯気の立ち上るできたてを。
神戸新聞/2006年2月17日掲載
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