鍋の口の米菓
壺を一つ用意する。ステンレス製でも、素焼きのものでもよい。
湿らせた木綿の布を口にかぶせ、ピンと張ってひもでしっかりと縛る。布の隅の方に、切れ目を少し。
少量の水を注ぎ入れ、火にかける。湯気がしゅんしゅんとわき上がってきたら、準備完了。
水に溶いた上新粉を、お玉にとって丸く垂らす。湯気に熱せられ、あっと言う間に固まっていく。スプーンで具を乗せ、ヘラでくるくる包み、一口大に整えてできあがり。
鮮やかな手際で、カーオ・クリアップ・パーク・モーが次々とできあがっていく。
「鍋の口の米菓」というほどの意味のこの食べ物は、何よりもまず、目においしい。
艶やかに光る皮からは、つるるん、ぷるるんとしたなめらかな食感が想像される。
生地に練りこまれた、ニンジン、紫キャベツ、ビート、ニオイタコノキの葉などの天然の色が、とりどりに楽しい。
愛らしいお菓子に違いない。
だが、舌に乗せた瞬間、その期待は見事に裏切られることになる。
一言で表すなら、甘じょっぱい。砂糖とナンプラーの組み合わせによる味付けは、これまでになかった味覚体験かもしれない。
具は、豚の挽き肉。ニンニク、コショウ、紫タマネギ、カラシナの漬け物、ピーナツを混ぜて炒めてある。
添えられる野菜は、コリアンダーにトウガラシにレタス。上にまぶされたきつね色のフレークは、炒ったニンニク。
甘くて辛くてしょっぱくて、不思議な感じ。
半透明のタピオカ団子も一緒に蒸していることが多い。これも、葛饅頭のように見えるが、やはり同じ豚肉が詰まっている。
お菓子ではなく、かと言ってご飯というほどではない。小腹が空いたときにつまむ食べ物たち。少し乱暴な例えになるが、たこ焼きの存在感に近いかもしれない。
いつもどこかで誰かが何かを食べている食の街バンコク。ちょっとしたつまみ食いの選択肢も豊富で、新しい味覚が待ち受けている。
神戸新聞/2006年2月24日掲載
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