揚げ米サラダ
昔は、通りに出ている「お店」といえば、天秤棒での商いだった。
鍋や材料にはじまり、燃料の炭や食器類、さらには折りたたみのいすやテーブルまでを長い棒の両端にかけ、肩でかついでいた。
現在では、ゴムタイヤを装備した三輪の手押し車をもっともよく見かける。これだと、積める量も多いし、移動のための労働量もぐっと少なくてすむ。
では、天秤は廃れたかというと、そういうわけでもない。
設備投資は小額ですむし、持ち運びも容易。農閑期に地方からバンコクへ出稼ぎに来たような人には、こちらの方が便利なこともある。
運べる重さが限られるので、調理済み、もしくはさっと混ぜるだけの料理が売られることが多い。
ヤム・カーオ・トート(揚げ米サラダ)もその一つで、全ての材料は下ごしらえされている。
竹で編んだカゴをのぞくと、野菜の緑色の中に、白い半透明の物がこんもり。くにくにした歯ごたえもおもしろい、湯がいた豚の皮の千切りである。
整然と積み上げられた、卵ほどの大きさのキツネ色のまん丸は、炊きたてのお米に、塩、ココナツミルク、トウガラシ、レモングラス、紫タマネギなどで軽く下味をつけてから、丸めてこんがり揚げたもの。そのまま食べてもおいしそうだが、これを手でぎゅっと握って、ほどよい大きさに砕く。
つぶしたニンニク、炒ったピーナツ、千切りのショウガ、コリアンダー、青ネギを加え、粉トウガラシ、ナンプラー、ライムで味付けし、全体をよく和える。
できあがりは、発泡スチロールの箱に入れてお持ち帰り。レタス、キュウリ、ササゲ、ホーリーバジルなどの生野菜もたっぷり添えてくれる。
さっぱりした味で、ご飯のおかずにも、ビールのつまみにももってこい。
天秤売りの数は少なくなったとはいえ、それでも目にしない日はない。
地下鉄駅構内の「禁止事項」の案内板にも、「ポイ捨て・喫煙」などと並んで、「天秤の行商」が挙げられているほどだ。
神戸新聞/2006年3月24日掲載
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