スキです!

 タイの物言いの一つにこんなものがある。「タイには二つの季節がある。曰く、暑い季節と、とても暑い季節の二種類だ」
 でも、実際には10月で雨季が去り、11月からは寒季に入る。寒季とは言え、北緯13度、熱帯の国である。10月に比べても、気温はたったの1度ほどしか低くならない。これを書いている今日(11月29日)も最高気温は33度という予報が出ている。一方、降水量は10月に230mmを越えるが、11月に入った途端にがたっと減り、50mmほどになる。
 この気温にして、この雨量。今のバンコクは、実にビアガーデンシーズン。世界の終わりのような雨降りを心配することなく、屋外で冷えた生ビールを楽しむにはちょうどよい気候である。
 そんな中、日本の友達とやりとりをしていて、「マフラーが手放せない」とか「風邪をこじらせた」などと言われると、自分はバンコクにいるのだなあとしみじみと感じ入る。中でも、一番感じ入ったの「そろそろ鍋をしたいなあ」というメールだった。「ヱビスなんかを飲みながら鍋をつつく、云々」。うらやましい……。
 タイにも鍋物はある。
 もっともメジャーなのは「スキ」という料理。どんな食べ物かと言うと、「タイ風寄せ鍋」に他ならない。白菜や空芯菜や袋茸や、豆腐や春雨や、魚や貝や肉や色々の内臓や、エビのすり身のワンタンや、とにかく各種の具を鍋に投入して、刻まれた香草の入った甘辛いタレにとってわいわいと食べる。
 具を入れる順番などはあまり気にせず、とにかくどさっと入れて、そしていきなり溶き卵を全体に絡めるのがタイ人ぽい食べ方。鍋奉行が口を挟む余地はあまりない。
 そんなにとやかくは言わないまでも、ダシの出るものを先に入れて、火の通りの早い野菜や豆腐は後から入れる。そして最後のおじやに卵を溶くという日本的な方法が、個人的には好きだけど。
 日本にあるタイ料理屋でも、セットメニューとして用意していることも多く、タイに来たことがない方にもなじみがあるかもしれない。こちらには何種類かのチェーン店があって、あちらこちらで見かける。日本に支店を出している店もある。
 内の一つ、MKレストランのホームページに面白いコーナーを見つけた。各国人の「スキの食べ方」紹介である。それによると、シンガポール人は「ご飯を一人に二杯ずつ用意して食べる」だとか、中国人は「まずキノコ類をダシに入れ、ダシの味わいを深めてから食べる」などとある。
 どうしたわけか、日本人のそれが最初に記載されていていて、分量も一番多く割かれている。タイでは、最後におじやをつくる習慣がないので、「鍋に残ったダシでおじやを作るには」という紹介まで丁寧に載っている。
 スキの由来なのだが、「日本から伝来したのだが、スキヤキとしゃぶしゃぶが入れ違って伝わった」 だの「モンゴルに源流を持つ」だの「広東からやってきた」だの、諸説紛紛。
 ただ、「タイのオリジナルではないらしい」という認識では共通している。それでもなお、今日では立派にタイ料理に組み込まれている。この姿勢は、スキに限らずとてもタイ文化らしい部分だ。
 独自性と言えば、こちらではビールに氷を入れて飲むことも多い。これはこれで乙なもの。ご来タイの折りには、スキと共にどうぞお試しを。「寒季になったから鍋にするか」という感覚は取り立ててなく、エアコンの強烈な店内で、一年中美味しくいただくことができる。

・参考リンク
 MK RESTAURANTS


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